林真理子が考える「コロナ時代」の作家の使命 "激動の時代"を執筆中の作家が見た「この半年」
『私はスカーレット』も新訳ではなく、「超訳」。だから、私が読んで共感できないと感じたところは、無理に入れなくていいのではないかと考えています。
――源氏物語をモチーフにした小説もお書きになっています。ここ最近は読者に現実をしばし忘れて夢を見てもらえるような小説を意識していらっしゃるのでしょうか。
とくにそんなつもりはないんですよ。
『週刊新潮』で連載している「小説8050」は、いじめや長期化する引きこもりなどの社会問題をテーマにした小説です。正直なところ、あまり得意な分野ではなかったので、依頼されたときは戸惑いました。取材も本当に大変でした。
でも、連載がスタートしたら、思いもよらないほどの反響があったんです。引きこもりの問題がこんな切実で、人の心を打つとは知りませんでした。
この難しい作品にじっくり取り組む時間を生み出せたのが、コロナ禍で唯一よかったことかもしれません。苦手なこともやっていかないと幅が広がらないですからね。
何もせず、不満や不安ばかり口にする人が増えていますが、幸い私の周りはポジティブな人ばかり。経営者の友人も多く、会社の先行きにも不安があるとは思いますが、みんな「なるようになる」と話しています。だから私も、どんなことも前向きに変換してとらえるようにしています。
コロナ禍でわかった「生きる力のある人」
――新型コロナウイルスのせいで何かを失ってしまったかもしれないけれど、視点を変えれば得られるものもあるということでしょうか。
何もなかったように見えたこの数カ月に意義を見いだすことができる人は、生きる力があると思います。
先日、音楽評論家の湯川れい子さんに会いました。84歳の湯川さんは、新型コロナウイルスが流行しだした年明けから今までを振り返って、「私の残された貴重な半年を返してほしい」とおっしゃった。
私もよくわかるのですが、この歳になると時間って本当に貴重なんですよ。残された時間でどんな作品を書いていけるのだろうか。湯川さんと話して、私も思わず考えてしまいました。
20代だって、大切な1年の半分が失われてしまったことには変わりがありません。本も読まない、コンサートも行かない、お芝居も見ないという若い人が増えているようですが、ネットニュースを眺めたり、チャットやゲームしているだけで過ぎていく時間をもったいないと思ってほしい。本来であれば、この半年に出会うべき人がいて、経験すべき多くの出来事があったはずです。
今からでも遅くはありません。チコちゃんではありませんが、人に「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と言われないように(笑)、できる範囲で面白いことや楽しいことを見いだして、人生を楽しんでください。私も作品を通して「生きていればいろんなことがある」というメッセージを発信し続けていきたいです。
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