日銀の強気な物価見通しに、高まる警戒感 円高懸念に加え景気失速リスクも

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 4月30日、市場の日銀追加緩和期待が後退している。民間予想に反して、日銀が強気の物価見通しを崩さないためだ。写真は会見場を去る黒田総裁(2014年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 30日 ロイター] - 市場の日銀追加緩和期待が後退している。民間予想に反して、日銀が強気の物価見通しを崩さないためだ。もしかすると、追加緩和なしのまま、目標の2%を達成してしまうのではないかという警戒感も市場の一部で警戒され始めてきた。

インフレ到来を織り込む形で、株高・円安が進むのが理想だが、日本経済の勢いがなくなっているとみられれば、円高・株安に逆戻りするリスクも無視できなくなる。

<注目された16年度のCPIは2.1%上昇>

黒田日銀が目標とする物価上昇率2%の達成には、まだ道半ばとはいえ、30日発表された展望リポートでは、強気な見通しが目を引いた。

2014年度の1.3%、15年度の1.9%は従来通りだったが、今回初めて公表された16年度は2.1%。市場では2.0%に設定されるとの予測が出ていたが、それを上回った。

現在の「異次元緩和」政策を変更しなくても、目標の2%を達成できるとも読めるため、展望リポートを受けて、マーケットの追加緩和期待は後退。30日夕方の市場で日経平均先物は下落し、ドル/円

「夏場以降の景気・物価シナリオにこれだけ自信を持っているので、このシナリオをよほど崩すことがない限りは、夏場の追加緩和は難しいのではないか」と、SMBCフレンド証券シニアマーケットエコノミストの岩下真理氏はみる。

民間予測では、消費増税の影響もあり、日銀予測ほど物価は伸びない見通しだ。日本経済研究センターが10日発表したESPフォーキャスト調査(民間エコノミストによる日本経済予測の集計調査)によると、増税を除いたベースでのコアCPIは、14年度0.97%、15年度は1.03%。

ただ、これまでは日銀シナリオの方に軍配が上がってきた。今後、2%の物価上昇がみえてきたときに、マーケットはどう反応するのだろうか──。

短期筋のポジション巻き戻しに懸念

1つは、本日のように日銀追加緩和期待が後退することで、ネガティブな反応が出ることが考えられる。いわゆるアベノミクス相場を通じて海外勢が日本株買い、円売りポジションを積み上げてきた背景には、日銀の積極的な緩和姿勢がバックにあった。金融緩和環境が変わらないとしても、追加緩和期待が後退することは、ドル高・円安の一要因であった日米の金融政策姿勢の格差を縮めてしまう。

特に投機筋は、円の売り越しポジションを6万7000枚近く保有している(米CFTC)。野田佳彦前首相が解散宣言する前の2012年10月時点ではポジションは円買い越しであり、当時のドル/円は80円を下回る水準だった。

定着した貿易赤字構造など、ファンダメンタルズ上の円安要因も増えているが、短期筋のポジションが本格的に巻き戻されれば、大きな円買い圧力になることは間違いない。

日本株も年初から海外勢は2兆円以上売り越してきたが、昨年は15兆円以上買い越しており、こちらも売り余地は大きい。足元の企業業績に対しては割安感も漂う水準だが、円高時代に戻れば、収益予想の算段は大きく狂ってしまう。

投資家にも根強いデフレマインド

一方で、デフレ脱却の効果で期待されるのは、インフレ時代が視野に入ったことにより、投資家が株式などのリスク性資産にポートフォリオをシフトしてくれることだ。為替もインフレになれば円安要因になる。

足元の景気回復の原動力は、株高による資産効果や円安による輸出企業の業績改善が大きい。株高・円安のエンジンが日銀緩和から投資家のインフレ対応にバトンタッチしてくれれば、景気のサポート要因は維持される。

ただ、足元の物価上昇は輸入価格上昇などを背景としたコストプッシュ型だ。「悪い物価上昇」との指摘も多い。日銀が指摘するように需給ギャップが改善しているとしても、賃金上昇が伴わなければ、インフレは家計を圧迫し、需要は低下。再び需給ギャップが開く可能性もある。

投資家にも、過去20年続いたデフレが投資判断に大きな影響を与えているという。「若いファンドマネージャーなどは、インフレ環境というイメージがわきにくいのではないか。少し物価が上昇したからといって、緩和姿勢をすぐに崩してしまっては、デフレ思考がすぐに復活してしまう。姿勢転換は遅過ぎるくらいでいい」と三井住友アセットマネジメント・シニアストラテジスト、濱崎優氏は指摘する。

物価が継続的に上昇していくかどうかをみるには、企業の価格決定力が1つのポイントになる。値段を上げていっても、売り上げが落ちないとの確信を企業が持てるようになれば、一時的ではない安定的な物価上昇が展望できる。

価格決定力を測るのは難しいが、日銀が公表している製造業の投入物価指数と産出物価指数の推移をみると、その前年比の伸び率比較(産出指数/投入指数)は2014年3月は0.75%。つまり物価上昇分の75%だけ転嫁できたことになる。

月ごとに数値の振れはあるが、ならしてみれば、アベノミクス前と比べて、大きな改善はみられていない。

SMBC日興証券シニアマーケットエコノミストの嶋津洋樹氏は「デフレ脱却という点に注目している外国人投資家は、まだ少ないようだ。物価が日銀のシナリオ通りに上昇しても、当初は日銀緩和期待の後退というネガティブな影響の方が大きいかもしれない」と指摘。マーケットで、インフレ対応の投資行動が広がるには、9月中間決算発表で、どの程度、企業の価格決定力が回復しているかが重要だと話している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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