「ポテサラおじさん」ドイツでは有りえない理由 「母親への要求が高すぎる」日本のモヤモヤ

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冒頭で紹介した事件のように、妊婦をターゲットとした嫌がらせや暴力行為が後を絶たないため、日本ではマタニティーマークをつけることに不安を抱いている妊婦も多いようです。

ドイツはというと、実はマタニティーマークがありません。これは決して妊婦に冷たい社会というわけではありません。

電車やバスなどの公共交通機関で妊婦だとわかれば、女性も男性も積極的に席を譲ります。そうはいってもパッと見て妊婦であるか否かの判断が難しいのはドイツも同じです。ではマタニティーマークのないドイツではどうしているのかというと、妊婦が自ら座っている人に話しかけます。

「妊娠しているのですが、すみませんが譲ってもらえませんか?」と。筆者もミュンヘンの地下鉄で何回かこの光景を見ましたが、言われたほうは“Aber natürlich!(「もちろんです!」)”と満面の笑顔で席を立つので、見ていてほのぼのとします。

子育て女性にもっと優しくしませんか?

日本の感覚だと、女性自ら「私妊娠しているので、席を譲ってもらえませんか?」と話しかけるのは違和感があるかもしれませんが、ドイツはもともと公共交通機関などで知らない人同士で会話をするのはごく普通のことですし、困った時に知らない人に声をかけることも普通です。

そういった背景があるため、ドイツではマタニティーマークの需要はなく、それよりも「会話」が重視されています。妊婦さんに限らず、何かをしてほしい時は、自分の口で述べて会話をすべきだ、というのがドイツ社会のコンセンサスなのです。

今の日本は「子育ては女の仕事」だと考える人が多い一方で、実際に子育てをする女性はきつく当たられるという何とも理不尽な社会です。子を持つ女性だって同じ人間である――そのコンセンサスが日本社会で欠如していることが冒頭の事件のような暴走中年やポテサラおじさんを生み出しているのではないでしょうか。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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