箱根登山鉄道「3カ月前倒し復旧」なぜ実現した? 西日本豪雨の鉄道復旧ノウハウも生かされた

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より大きな被害が発生し、復旧作業も難航したのが蛇骨陸橋だ。蛇骨陸橋は、3つの橋脚の上に4つの橋桁が載った構造になっているが、線路脇の崖の斜面(のり面)崩壊により発生した大量の土砂に巻き込まれ、強羅方の橋脚1脚の一部と、この橋脚に支えられていた橋桁2連が崩落し、さらに陸橋上の約40mを含む、全体で約80mにわたる、レール・枕木・架線などの鉄道施設が流出した。

蛇骨陸橋の構造と被害の状況(筆者作図を基に編集部加工)

蛇骨陸橋の復旧方法についても鉄道総研に相談したが、流出を免れた2本の橋脚や橋桁もレールなどの流出に伴い損傷し原状回復が難しいこと、また、大正時代につくられた構造物であることから、現在の技術基準への適合性等も勘案し、古い構造物をすべて撤去のうえ、新しい橋を構築することになった。

工事を阻む急峻な地形

この架橋工事に立ちはだかったのが、崖と蛇骨川の流れる谷に挟まれた急峻で狭隘な地形だ。並行する国道からもやや距離があり、大型トラックや重機を搬入する経路を確保するのが難しい。

蛇骨陸橋付近の崖崩れ現場。線路から高さ100mくらいのところが大きく崩壊した(画像:箱根登山鉄道)

このような場所で、蛇骨川に流入した樹木・土砂・レール・枕木などの堆積物の除去、のり面の補強、鉄道橋の復旧という3つの作業を、一部、並行して行わなければならなかった。

工事の手順としては、まず、崖崩れが発生したのり面の一部に、台風時に崩落を免れた部分があり、これがいつ崩落するかわからない状態だったため、二次災害防止の観点から地質調査(ボーリング調査)を行った。この調査にはおよそ1カ月を要した。

大規模な崩落の危険がないことが確認されると、続いてのり面に残っている樹木、残土を撤去し、格子状に組んだ鉄筋の上からコンクリートを吹き付けるフリーフレーム工法による補強工事を実施した。

以上ののり面の調査・補強工事は、対象ののり面が民有地の保安林であるため、神奈川県が実施し、のり面が安定した後に、箱根登山鉄道が橋脚復旧工事に着手した。また、これらの作業と並行して、県が蛇骨川の堆積物の除去作業も行った。

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