三陽商会の社長が激白、「銀座ビル売却」の裏側 象徴的なビルだったが、現金確保を優先へ

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ギンザ・タイムレス・エイトの売却によって資金調達に区切りをつけ、残る東京・新宿の本社ビルおよび別館の「ブルークロスビル」を手放す考えはないという。

さまざまな産業を揺らす新型コロナだが、不動産業界にとっては追い風にもなっている。業績の振るわない企業が保有する不動産を資金化するニーズが高まり、不動産会社がその受け皿となるためだ。「この数カ月、遊休不動産を買ってくれないかという打診が増えている」(大手デベロッパー)。

例えば、老舗百貨店の髙島屋は今年2月、不動産会社のボルテックスに対して東京・港区のマンションおよびオフィスを売却。このように都心や駅チカなど希少性の高い地域で物件が売りに出されるほか、売却を急ぐ企業からは相場よりも割安で取得できるため、現在の状況を好機と捉える不動産会社は多い。

ギンザ・タイムレス・エイトの売却話も当然、不動産業界の関心を呼んだ。三陽商会は売却時に「幅広くオファーを募った」(大江社長)。ほかにも、取引金額の大きさから、手数料目当ての仲介会社から「うちも取引に一枚噛ませろ」といった連絡まで来たという。

買収するうえでの難点はビル仕様

ところが、実際に手を上げた会社は多くなかったようだ。「(買収額は)100億円でも難しい」。ギンザ・タイムレス・エイトの取得を持ちかけられた不動産会社の担当者は、間尺に合わない物件と見ていたことを打ち明ける。

ギンザ・タイムレス・エイトのビル仕様は、特徴的な構造になっている。あくまで三陽商会の自社ビルとして設計されたこともあり、客と店員の導線を分けるため売り場とバックヤードが分断され、かつ100坪強という小さなフロアに階段とエレベーターが複数設置されている。その結果、賃貸ビルとして運用する際にレンタブル比(延べ床面積に占める収益面積の比率)が低く抑えられ、規模の割に賃料が取りにくい。

加えて、ギンザ・タイムレス・エイトが立つ銀座8丁目は銀座エリアの南端に位置し、東京メトロ銀座駅よりも新橋駅のほうが近い。銀座とはいえ中心部と比べて賑わいに差があることも、多くの不動産会社を躊躇させた。

売却後もタイムレス・エイトは取り壊されず、賃貸ビルとして存続する。現在後継テナントを募集中で、物販に限らずオフィスとしての利用も検討されているようだ。アパレル会社からオーナーの移った商業ビルがどのような表情を見せるのか、コロナに揺れる銀座の試金石となりそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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