紙処理に追われる経理がデジタル化できない訳 低い投資の優先順位、「紙決裁」への愛着も

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1つは社内における経理部門の位置づけだ。ロボットペイメントの清久社長は「本来デジタル化がしやすい分野にもかかわらず、経理部門は企業内でコストセンターと捉えられ、IT投資の優先度が低かった」と分析する。

経理部門は営業やマーケティングのようにプロフィットセンターに位置づけられる部署と異なり、経理担当者は社内業務が中心であることから重要視されないという面もある。

もう1つが「お金のやりとりだからこそ紙でやりとりしたい」という社内の声だ。「紙で印刷してハンコが押してある書類のほうが丁寧で、今までのやり方が望ましいという意見が社内から出て、なかなか前に進まない」(前出の経理担当女性)。

電子請求書で生産性も向上

3つ目が、取引先と一体となった対応が求められることだ。請求書業務に代表されるように、自社だけが請求書を電子化しても、取引先も電子化が進まなければ完全移行が実現しない。「紙でも動いている経理の仕事を変えるには非常に胆力が必要。これまでは経理の方々が声を上げられなかったが、彼らの声を届けて経営者にもっと問題意識を持ってもらうようにしたい」(ロボットペイメントの藤田氏)。

それには1社単独の取り組みでは難しい。電子帳簿保存法の所管は国税庁だが、今回のように多くの会社がまとまって動き、企業のDX化を推進している経産省に働きかける意義は大きい。

プロジェクトに賛同した、企業間取引の電子化システムを手がけるインフォマートの木村慎執行役員は「電子請求書は社員の労働生産性の向上にもつながる」と話す。インフォマートの「BtoBプラットフォーム請求書」は、企業間の請求書の受け渡しをすべて電子化することでコスト削減とペーパーレスを実現する仕組みだ。

業務の電子化が実現すれば、効率化以上のメリットを出せる。「電子化して一気通貫できるシステムを使ってもらえれば、社内のデータを俯瞰して見ることができる。紙の請求書処理に追われていた経理担当者がもっと別の形で会社に貢献できるようになるのでは」(木村氏)。

毎月の定型業務をこなす経理の仕事を改善し、生産性を向上できる。会社全体の資金の流れを把握しているからこそできる経営計画策定や、ファイナンス計画の策定などにも関われれば、経理担当者のキャリアアップも不可能ではない。

「経理の仕事の再定義をしていきたい」(ロボットペイメントの藤田氏)。経理担当者のテレワーク実現やコスト削減のための取り組みが、ひいては会社の成長を加速する人材育成につながるのかもしれない。

菊地 悠人 東洋経済 記者

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きくち ゆうと / Yuto Kikuchi

早稲田大学卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者を経て2017年10月から東洋経済オンライン編集部。2020年7月よりIT・ゲーム業界の担当記者に。

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