本を「読んだ端から忘れる人」が知らない記憶術

多読の法律家が見出した「忘れないコツ」

弁護士になる前、わたしには「読むのが遅い」というコンプレックスがありましたが、当時のわたしは、この5W1Hを全然意識していなかった、ということです。また、どのような本でもスラスラ読むことができる現在では、この5W1Hをつねに意識して本を読んでいるということです。

実は、これは書き手になったことで明確になりました。本の書き手は、無から有を生み出して本を完成させていきます。しかも、絵本でない限り、それはすべて文章で書き尽くさなければいけません。そのときに、5W1Hを書き手が意識しないことはないのです。

なぜなら、5W1Hが明確にならない文章は具体性がなく、読み手に伝わりにくいからです。ただし、日本語は、省略の文化をもっており、5W1Hのすべてがそろう文章ばかりではありません。

書き手が主語や場所を省略する理由

文章にはリズムが何よりも重要で、村上春樹も「文体が作家にとって最も重要だ」と言っています。作者は同じ内容でも、どのようなリズムの文章を選択すれば読者にスムーズに伝わるかを考え、何度も書き直して文章を練っています。

ところで、「わたしは」という主語は、小説を除いて基本的には著者になります。本書のような本もそうです。ただし、著者は「わたしは」という主語を極力省略します。最初は「わたしは」と原稿に書いたとしても、少しうるさいかなと考え、原稿を読み直して削除することが多いのです。

また、複数の登場人物がいる小説でも、主語を明記すると文章の格調や流れを損なうため、会話文であっても「誰が」言ったのかの説明は省略されることが多いものです。この場合、前後の文脈、その登場人物の話し方の特徴、会話内容などから主語を推測することが読者には求められます。

場所についても、1文1文に書くとうるさくてたまりませんので、一度どこかで設定された場所が移動しない限りは、省略されます。これは、場所に関する描写がある小説などの物語に顕著です。これに対して、本書のようなスタイルの本では通常、場所がどこかは問題にならないはずですが、エピソードの記述があるときには、場所についても言及されることもあります。

いずれにしても、場所が出てくる本を読むときは、例えば「このシーンは3ページ前に記載された場所のままなのか?」「その後、その場所から移動したのか?」というように場所を意識することが、小説を正確に理解するコツだと思います。

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