「美白クリーム」がインドから消えつつある理由 化粧品会社が直面した「白人こそ最高」問題
ファノンの告発は、日常的、無意識的な支配のあり方を明らかにする、ポスト・コロニアリズム研究と呼ばれる学問の潮流を生む、1つのきっかけになった。
しかし、ファノンの告発から約70年を経た現在でも、欧米や白人を暗黙のうちに高級、スタイリッシュといったイメージで描く風潮は根強い。それは資金の豊富なメディアによって、むしろ増幅している。
インドの美白クリームの場合、インド人の有名女優などを起用した大々的なコマーシャルは、「白い肌こそ素晴らしい」というすり込みになったと批判される。
日本でも、化粧品メーカーやファッションブランド、スポーツジムなどの広告やポスターで、金髪碧眼のモデルが起用される割合は高い。そのこと自体、日本もファノンが暴いた自己倒錯と無縁でないことを象徴する。
呪縛から人間を解放する
かといって、「黒い方が美しい」や「日本人の方が素晴らしい」と言えば、「白人こそ最高」という主張が形を変えただけに過ぎない。
ファノンは「白人こそ最高」という呪縛から黒人を解き放つことを説いたが、その一方で「黒こそ最高」という意見には同調しなかった。
つまり、そこで重視されたのは、誰かが作ったイメージで自分を無価値と思い込んだり、あるいは逆に慰めたりすることから、人間を解き放つことだったといえる。その意味で、#DarkIsBeautifulのなかでしばしば見受けられる「黒い方が美しい(ここでいう黒いはDarkであって黒人のBlackは含まない)」という主張は、「白人こそ最高」という価値観への反発ではあるが、結局呪縛から逃れられていないことになる。
インドの美白クリーム問題は、ファノンが示した道のりの険しさを、改めて示すものといえるだろう。
※当記事はYahoo!ニュース個人に初出掲載されたものです。
1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら