豪雨で「人気鉄橋」も流出、九州の鉄道再び受難 熊本地震で被災の豊肥本線「全面再開」目前に

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JR九州管内では、2016年4月の熊本地震により、熊本と大分を阿蘇経由で結ぶ豊肥本線で大規模な土砂崩れが発生。いまも肥後大津(熊本県大津町)―阿蘇(同県阿蘇市)間の不通区間が残っているが、今年8月8日の全線再開に向け、7月21日に試運転を始めると発表している。

さらに2017年7月の九州北部豪雨で、久留米(福岡県久留米市)と大分(大分県大分市)を、日田・由布院経由で結ぶ久大本線の橋梁が流出。全線再開に約1年を要した。この間、国内外の観光客に人気の特急「ゆふいんの森」は、大幅に所要時間がかかる迂回運転を余儀なくされた。

一方、同じく九州北部豪雨で被災した日田市から北九州市へ抜ける日田彦山線の夜明(大分県日田市)―添田(福岡県添田町)間は不通となったままで、バスによる代行輸送が続いている。JR九州と沿線自治体などとの協議で、鉄道による復旧を断念してバス高速輸送システム(BRT)に転換することで今年5月に事実上決着した。

2018年7月の西日本を中心に甚大な被害をもたらした豪雨では、筑肥線で斜面から流れ出た土砂に列車が巻き込まれて脱線したほか、原田線(筑豊本線)や肥薩線が被災。それぞれ運転再開までに数日から8カ月の時間を要した。

赤字が深刻な路線

JR九州が今年5月27日に初めて公表した線区別収支によると、肥薩線の八代―人吉間は2018年度、営業収益2億7100万円に対して営業費が8億4400万円で、差し引き5億7300万円の赤字だった。1日当たりの平均通過人員は455人と、1987年度の2171人と比べて8割減となっている。

同社は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、在来線特急の減便や観光列車の運休を強いられてきた。都道府県をまたぐ移動自粛が全国で緩和された6月19日、ようやくダイヤを平常化したばかりだった。

肥薩線を走る観光列車「かわせみ やませみ」(左)と「いさぶろう・しんぺい」=2017年(記者撮影)

外国人観光客の回復が当面見込めないなか、7月14日にななつ星の復活、8月8日の豊肥本線の全線再開と、明るい兆しが出てきたタイミングでの肥薩線の被災。JR九州は観光列車を運行させるだけでなく、駅でのおもてなしなど沿線住民と一緒に盛り上げてきただけに、長期の不通となれば被災地以外の地域へのダメージも大きい。JR九州の広報担当者は「ななつ星は代替ルートでの運行を計画中」と話す。

2017年に橋梁が流出した久大本線が約1年で全線再開できたのは、行政などの協力で川の水量が少ない時期以外も橋梁の工事を進められたという事情がある。一方、宮崎県などが出資していた第三セクター「高千穂鉄道」のように台風で被災したのをきっかけに廃線となった路線もある。大規模で長期にわたる復旧工事は、ただでさえコロナで経営が厳しくなった鉄道会社にとってこれまで以上の難題となりそうだ。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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