日本マイクロソフトでクラウドのエンジニアとして働く廣瀬一海氏は、新型コロナの感染拡大が日本でも目立ち始めた3月半ば、終業後の自宅で接触確認アプリの開発を始めた。当時世界に先駆けてシンガポールで配信された「TraceTogether(トレース・トゥギャザ)」という接触確認アプリを見て、「すごくいいアイデアだと思ったのがきっかけ」(廣瀬氏)。
日本医師会でソフトウェア開発に関わったという廣瀬さんは公衆衛生の知見もあった。当時はアップルとグーグルのAPIもなかったため、手元のiPhoneとAndroidのスマホを使い、試行錯誤しながら進めていったという。ただ1人での開発にも限界があり、「オープンソース」として進めることにした。
「オープンソース」の意義
オープンソースとは、プログラムのコードの中身を公開し、第三者のエンジニアからの助言や修正を募ったり、ほかのプロジェクトの開発に役立ててもらったりすることだ。「GitHub(ギットハブ)」などのコードを保存・共有するサイト上では、日々さまざまなプロジェクトが公開されている。消費者が日頃使うアプリにもオープンソースの技術が数え切れないほど使われている。
オープンソース開発とした理由について、廣瀬氏は「医療に使われるソフトは透明性が高く、誰もが検証可能であることが求められる。オープンソースはそれを担保するのに有効な手段だ。医師会で開発に携わった医事会計ソフト『ORCAプロジェクト』もオープンソースだった。共有財産だと考えているので、私がいなくてもメンテナンスできる状態にしたかった」と説明する。
廣瀬氏がフェイスブックなどを通じて呼びかけると、エンジニアやデザイナー、プライバシーポリシーなどを考える弁護士、広報担当者、アプリを試験利用するテスター、シンガポールや香港などで開発の支援や翻訳に携わる人たちなど、最終的に200人以上が集まった。
当初は廣瀬氏ら以外にも、東京都の新型コロナ対策のウェブサイトを開発した一般社団法人コード・フォー・ジャパンなど複数の団体・企業が、接触確認アプリの開発を進めていた。「コード・フォー・ジャパンなどとも(ブルートゥースに関連する)規格を統一して、アプリの互換性を持たせようという話をしていた」(廣瀬氏)。ただアップルとグーグルがAPIの利用条件に「1国1アプリであること」と定め、最終的に廣瀬氏らのプロジェクトの採用が決まった。
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