川崎汽船トップに黒谷研一氏が就任、本体取締役を経験せず子会社社長から大抜擢--次期社長インタビュー
海運大手の川崎汽船が異例の抜擢人事を発表した。本体の取締役を経験せずにシンガポールの子会社社長になった黒谷(くろや)研一氏が1月1日付で執行役副社長に就任、4月1日付で執行役社長に就任した後、6月末の株主総会で代表取締役社長に就任する予定だ。現任の前川弘幸社長は4月1日付で代表取締役会長に就任する。
黒谷氏は1946年12月19日生まれ。47年8月2日生まれの前川氏の1歳年上だが、前川氏が71年入社なのに対して黒谷氏は69年入社なので、社歴は2年先輩に当たる。川崎汽船時代の黒谷氏は、99年にコンテナ船事業担当役員付部長委嘱の理事に就任したのが最高で03年6月に退任、シンガポールの子会社「“K”LINE PTE」のマネージングディレクターに就任して現在に至る。黒谷氏曰く、川崎汽船のシンガポールでの存在感は、海運大手他社の日本郵船や商船三井よりも大きい。その証拠に今回の退任に当たって、シンガポール政府の3人の大臣が個別にお別れ会を開催してくれたのだ、という。
黒谷氏は岐阜県大垣市の出身で関西学院大学経済学部卒。1月4日の社内向け「新年の挨拶」では、前川社長に紹介されて「原点に戻り、楽しくやりましょう。まずはみなさんと自分の言葉で話をしていきたい」と全社員に語りかけた。
--社長交代の最大のミッションは何か。商船三井など国内大手海運同士の合併やコンテナ専業の海外他社の吸収を手掛けるのが主眼では。
「それはないと思いますね。6年半前にシンガポールに行くまで私はコンテナ一筋だったんですが、今回引き受けるときに前川社長と話をしたのは、「それなりのアクションプランを作っているんだけれども、それを専務や常務と一緒にとりまとめ、かつ、赤字のコンテナ部門の立て直しの牽引役になってもらいたい」ということだった。それであれば、過去の私の経験が、若干でも生かせるのならお役に立てるかな、ということで受けたので、まず最大の赤字のコンテナ部門をなんとかしたい。黒字回復に持って行きたい、ということを念頭に置いております」
「一方で、私の考えでは、必ずしも合併は赤字脱却できる要素にならないのではないか。かつてマースクがP&Oを買収したときには「すぐ船が欲しかった」ということがあったので買収理由が分かるし、シーランドの買収ではターミナル、というメリットがあった。今、国内大手海運会社が他の大手を買収しても、お互い赤字だから、赤字が倍になるだけでメリットはないと思います。同じように、海外同業他社を買収するとしてもメリットがちょっと私には見えない」
--コンテナ船事業グループ長の経験者は現役員に3人いる。それなのに黒谷さんが次期社長になる理由は。子会社社長から本体の取締役を経ずに、いきなり社長になることや現社長より年上であることなどから「抜擢人事」「異例人事」「先祖返り」という声もある。