日比谷線THライナー登場、指定席の需要あるか コロナ後「脱・満員電車」時代の先駆けに?

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「TJライナー」は座席をロングシートからクロスシートに転換可能な車両を用いることで、日中は普通列車として運行し、朝・夕夜間は着席列車として運行することを可能にした。これにより、着席列車を設定するために必要なコストは、通常の車両と座席転換型車両の差額で済むようになったというわけだ。

「THライナー」用車両の70090型は、クロスシート(上)とロングシート(下)の両方に転換できる座席を備える(写真:東武鉄道)

地下鉄と相互直通運転を行うには、車体サイズ、信号形式、安全設備など、地下鉄の規格に沿った専用設計の車両を用意する必要があるが、そのためだけに車両を新造しては採算を取ることができない。そこでここでも、ひとつの車両に複数の役割を持たせることで、地下鉄直通の座席指定列車という特殊な運用を実現している。

たとえば小田急のロマンスカー「60000形」 MSEは、本線での運用に加え、地下鉄直通とJR御殿場線直通の3つの役割を担っている。西武鉄道が「S-TRAIN」で使用している「40000系」は地下鉄直通車両に座席転換シートを組み合わせた車両で、普通列車としても、座席指定制のライナー列車としても使用することができる。

「THライナー」も、日比谷線直通車両の「70000系」をベースに座席転換シートを設置した新型車両「70090型」を新たに製造することで、この問題をクリアしている。

「着席通勤」コロナ後はさらに注目?

ちなみに西武鉄道の新型特急車両「001系」や京王ライナー用の「5000系」も地下鉄直通に対応した設備を備えており、将来的な地下鉄直通運転も見据えた構造としている。東武鉄道も中期経営計画で地下鉄直通対応型の新型特急車両の製造を発表しており、特急車両やライナー車両の「副業」として、地下鉄直通運用が一般的になる日も遠くないだろう。

コロナ後の鉄道事業は、まだまったく見通しが立たない状況にあるが、ひとつだけ確かなのは、利用者の満員電車に対する感覚が変わるだろうということだ。テレワークの普及や、時差出勤の拡大など、ピーク分散が進む一方で、通勤そのものの頻度を減らそうという動きもあり、鉄道事業の大きな転換点となりそうだ。

とはいえ、その中でも通勤をせざるをえない人は確実に存在する。そうした人々の座席指定列車に対するニーズが大きくなるのは間違いない。減収が必至な鉄道事業者も、ますます座席指定列車の増収に期待していくことになるだろう。そうした意味で、新たな時代に登場する「THライナー」の動向は、今後の通勤輸送の変化の先駆けになるかもしれない。

枝久保 達也 鉄道ジャーナリスト

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えだくぼ たつや / Tatsuya Edakubo

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)勤務を経て2017年に独立。鉄道ジャーナリスト、東京の都市交通史の研究などで活動する。

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