「キャッシュレス後進国」日本と中国の決定的差 敗因は「優先順位の付け方」を間違えたこと

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さらに致命的だったのは、キャッシュレス決済に不可欠な「①安全」を担保できなかった点だ。どのサービスもキャンペーン中にシステム障害で決済できなくなる事態を繰り返した。

とくに7pay(セブンペイ)のリリース、トラブル発生、サービス中止という一連の騒動が決定打になった。結果、もともとリスク回避を好む日本人の心理に、「キャッシュレス決済はまだまだ信用できないもの」という固定観念がつくられてしまった。

はじめに安全が確保されてこそ、利用者はキャッシュレスに前向きな心理を抱けるようになる。安全性に疑いがあれば、一気にリスクを避ける動きに傾いてしまう。日本にキャッシュレス決済が浸透できていない原因は、この優先順位が崩れたところにあるのだ。

「安心」ばかり追い求めてしまう日本

マーケティングには2種類のタイプがある。

ひとつは、アイデアやビジネスのプラスの側面を伸ばす「加点型マーケティング」だ。加点型は、トライ&エラーを高速に繰り返しながら「②楽」「③お得」といった価値を最大化させていく。

例えば、中国人起業家のエリック・ユアン氏がアメリカで創業したWeb会議サービス「Zoom」は、加点型によって急速に広められている。リリース前に長時間をかけて万全のサービスに仕上げるのではなく、普及を拡大させながら高速でサービスの改良を行っていった。当初はセキュリティ面での問題なども散見されたが、怒涛の改良を経て、結果としていまでも大きな支持を集めている。

これと対照的なもうひとつのマーケティング戦略が、ビジネスのマイナスの側面を取り除く「減点型マーケティング」だ。穴を埋め、リスクを取り除き、きめ細かなプロダクトをつくりあげる減点型は、「①安心」を重視したプロダクトを仕上げ、顧客の信頼を獲得していくことに有効となる。

日本の企画会議などでよく耳にする「万が一、こんなことが起きたら~」「それは前例がないから危ない」「成功する保証がない」といった言葉は、減点型の特徴だ。徹底したネガティブ・チェックが行われるからこそ、ピジョンの哺乳瓶や花王のオムツ「メリーズ」のように、安心・安全な高品質製品として、国内外で評価を集めるメイドインジャパンのものづくりが実現されている。

このように、多くの日本企業は加点型マーケティングには不慣れだが、減点型に特化している。

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