低所得者を食いものにする「極限の資本主義」 「VIP待遇」にハマる人が知らない企業の手法
しかし残念なことに、旅行シーズンが到来するたびにイビサ島で数多く発生しているのは、傷害、嫌がらせ、レイプ、殺人事件である。彼らの選択、行動、お金の使い方は、商業主義的な打算や押し付けによって支配されている。
旅行業界やメディア、とくにテレビのリアリティー番組は、人生をエンジョイする唯一の方法はお金を使うことだという考えを創り出して、繰り返し発信している。何種類ものビキニ水着を持参して毎日着替え、高価な腕時計やジーンズを身に着けていれば、もっといいことがあるかもしれない。
船上パーティー、サンセット・クルーズ、特別会員制クラブへの入会、ジェット・スキー体験、テキーラ試飲、プライベート・ビーチ・クラブへの入会などへ、さらにお金を投じれば、もっともっと人生をエンジョイできるかもしれない。
ブリッグスによれば、若者のグループは休暇が終わる前にお金が尽きてしまい、英国に帰る頃には再び借金が積み上がっている。
低賃金で食い物にされる過酷な労働生活の若者
そうした借金漬けの帰国にもかかわらず、彼らは翌年も再びたくさんのお金を持って島を訪れたいと思う。そういう意味では、彼らは「イビサ島を正しく利用できている」のである。「正しく利用する」とは、排他性の強い独占権に対してお金を支払うという意味だ。
例えば、VIP専用サン・ラウンジャー(屋外でくつろぐための寝いす)や超高級クラブのVIP専用エリアへの入場資格などである。しかし、いくらお金を支払ったとしても、もっと金額を積み増せば、さらにその上をいく特権的な空間や施設が絶えず待ち構えている。
そこで問題になるのが、次の点だ。あなたはどの水準までのVIP特権なら受け入れることができるのか。もし翌年島へ戻ってきたら、今年のステータスよりもさらに高いものを購入することができるのか。
ブリッグスはこれを“極限の資本主義”、つまり低賃金で、自己実現とは程遠い労働生活を強いられている若者を引きずり込んで、極端な快楽主義や浪費の世界へと駆り立てる金儲け優先のマーケティング手法だと呼んでいる。