今「株を買わなきゃ」と焦る人は、失敗しやすい 個人投資家に「持たざるリスク」は存在しない

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多くの個人投資家が異口同音に言うのは、「投資をやっていて一番悔しいのは、暴落した時に、買えば良いとは思っていても買う資金がないことだ」ということです。これは投資に回す予定の資金で目一杯株を買っているからです。どんなに強気の見通しでも、個人投資家はやはり一定額の現金は保有しておくのが良いと思います。

「でも、そうやって買わないうちに株価がどんどん上がってしまったらどうするのか?」と思う人もいるでしょう。特に今のように大きな下げの後に相場が回復基調になってくると、「今買っておかないと、ここからは“持たざるリスク”がある」などと良く言われます。そう言われると、「やはり急いで買わなきゃ!」と思いがちになるでしょう。

個人投資家には「持たざるリスク」などない

しかしながら、そもそも個人投資家には「持たざるリスク」などというものはありません。それがあるのは機関投資家などのように投資家からお金を預かって運用している人達です。彼らは相場上昇局面で株式への投資比率が少ないままだと、他の運用会社に負けてしまいます。そうなったら、顧客から見限られ、契約を解除されて他の業者に資金を移されてしまいかねません。だから彼らには「持たざるリスク」があるのです。でも個人投資家は自分の運用成績を誰か他の人と比べることはありませんし、比べても仕方ないですから、他の人がどうあれ自分は自分で判断すれば良いのであって、「株を買わないリスク」というものなどないのです。

もちろん、この後、大きな下げも来ずに上がり続ける可能性もあるでしょう。そうすれば「あの時に買っておけば良かった」と後悔するかもしれませんが、それは「儲け損なった」だけであって、実際の損失が出ているわけではありません。言わば機会損失に過ぎません。いずれ次の下落相場が来るまで待っていればいいのです。

上昇相場の時も実際の利益が伴わない理想買いの段階から一度下げた後に業績買いの相場に移行するのと同じように、下落相場も2段階あると私は考えています。最初は得体の知れない恐怖と先の見えない不安から下げる、言わばショック安の第1段階です。今回で言えば2月の終わりから3月下旬までの暴落局面です。

ところが実態が見えてくると、少し安心感が出てきます。実際に欧米では一部経済活動が再開されましたし、日本でもいよいよそうなりそうです。今がちょうどこの段階だと言えます。ところが今後様々な実態経済の悪い数字が出てきた場合、しかもそれが予想以上に悪かったりすると、相場は再び反落する可能性があります。加えて、もし第2波の感染拡大が起こってくるというリスクも捨てきれません。もう大丈夫と思った後に再び悪いニュースが出てくると、人は心理的に大きなダメージを受けますから、さらに大きな下落という可能性だってあります。

最悪のパターンは、今のような戻り基調の時に乗り遅れまいと慌てて買い、次に大きな下げが来た時に恐怖に駆られて売ってしまうことです。だからこそ「乗り遅れまい」と焦って株式に資金を注ぎ込むのではなく、今は冷静に見ながら一定の現金を維持することが必要なのではないでしょうか。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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