「京王ズの乱」は不発、問題多い高希薄化増資 大量の新株式発行を伴う増資が横行

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一方、300%まで許されてしまう希薄化率については、相変わらず高水準のケースが目白押しだ。しかも総会決議を取るケースは例外的。219.51%もの希薄化を伴うインスパイアーは、割引率もぎりぎりの9.6%だったためか、さすがに株主総会の普通決議を発行条件とし、3月28日の総会で可決された。

企業行動規範では「総会での意思確認」となっているので、特別決議を求めているわけではないが、希薄化率92.54%の第一中央汽船は3分の2以上の賛成が必要な特別決議を発行条件にした。

主流は第三者意見

株主総会での意思確認を条件にしたケースはこの2件だけ。希薄化率120.67%のイー・キャッシュ以下、25%以上の会社はいずれも第三者の意見を得て取締役会決議だけで発行している。義務づけの対象になっていない25%未満の希薄化であれば第三者から意見を聞かないで行うのが普通だ。

既存株主が差し止めの仮処分に動いても、「重要視されるのは資金使途。会社側が“ある”と言っている資金使途が“ない”と立証するのは難しい」(増資実務に詳しい中村直人弁護士)。

ここに登場する会社の大半は累損を抱え、インスパイアー、イー・キャッシュ、オプトロム、原弘産、ガーラに至っては発行前の時点で債務超過だった。債務超過解消がほぼ絶望的な状況となれば、手元の資金繰りが苦しくなる。資金繰りなどで緊急性が極めて高い場合は企業行動規範に従わなくてもいいとされており、増資はやりやすい。

京王ズのケースのように、既存株主が増資差し止めの仮処分申し立てをしたところで、認められる可能性は低い。高希薄化率の第三者割当増資が企業のお手軽な資金調達手段になっているのだ。

ただ今国会で審議中の改正会社法が可決されると、支配株主の変更を伴う第三者割当増資で、1割以上を保有する株主が反対すれば、株主総会の普通決議が求められる。手間も時間もかかる総会決議が義務づけられれば、一定のブレーキはかかるだろう。

(撮影:今井康一 =週刊東洋経済2014年4月12日号<7日発売>「核心リポート04」に一部加筆)

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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