ゴルフカートが「自動運転化」で注目される理由 あえてローテクで勝負する「ヤマハ」の公算

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自動運転システムといえば、LiDAR(ライダー)やミリ波レーダーといった最先端のセンサーシステムとAIを搭載するのが定番だ。しかし、ヤマハのランドカーは、そういった最先端技術は搭載されていない。

自動運転システムのイメージ(画像:ヤマハ)

車両の現在位置を把握するのには、地中に埋め込まれた誘導線や電子タグを使う。障害物の探知は、EFFIビジョンと呼ばれるステレオカメラを使う。

このカメラシステムは、設定されている走路上にある幅30cm×高さ80cmの障害物を検知するもの。人や物を見分けるというよりも、もっとシンプルに、障害物のあるなしを検知するだけだ。

最新のステレオカメラ技術と比べると、最先端とは言いがたい。しかし、最先端でない分だけ、枯れた技術ならではの信頼感の高さがある。雪道となった秋田の実証実験でも、問題なく運用できたという。

「遅い」ことに価値がある

面白いのは、自動運転の高度化にあまり積極的ではないことだ。

2020年4月の道路交通法の改正により、自動運転レベル3での公道走行が可能になっているが、そのレギュレーションに合わせた開発はしないのかと聞くと「それはない」という。あくまで、ドライバーが存在するレベル2に限定することで、走路上にある違法の路上駐車車両や信号機に対応する。

広島県福山市、鞆の浦エリアでの走行風景。細い道でも入っていける(写真:ヤマハ)

「ただし、ヤマハ全体としては、自動運転の開発は行っています」と田口氏。ランドカーとしての自動運転はレベル2に割り切っているが、ヤマハ全体としては別のプロジェクトが存在するというわけだ。

数多くの実証実験に採用され、一部では社会実装もされているヤマハのランドカー。しかし、その存在は完璧というわけではない。

「速度が遅いので、走る場所を選びます。他の速い車両と一緒に走ると怖いんですね。混合交通が課題で、すみ分けをしっかりしていく必要があります。しかし、われわれとしては、ゆっくり走ることに価値があると考えています」と田口氏。

速度が遅いことのメリットはあるが、当然デメリットもあるということだ。より速度の速い乗用車と同じ道路を走るのでは、他車両に迷惑となるし、危険性もある。そのため走行エリアや走行ルートには配慮が必要だ。ただし、そういうエリアやルートが確保できるのであれば、ヤマハのランドカーは観光や地域住民の安価な足としての価値がある。

「新しい選択肢のひとつとして認知されたいと考えています」と田口氏が言うように、ヤマハのランドカーは、過疎化などに悩む地域課題の解決策のひとつとなるのだ。

鈴木 ケンイチ モータージャーナリスト 

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すずき けんいち / Kenichi Suzuki

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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