ブラジル大統領コロナ対策に「超消極的」なワケ コロナは風邪のようなものと言って譲らない

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国や州、市とは別に対策をとっている地域もある。ファベーラと呼ばれる貧困街である。サンパウロやリオ・デ・ジャネイロなど都会には、出稼ぎに訪れている人も暮らすこうした貧困街が複数あり、多くは麻薬組織が仕切っていることもあって、犯罪の温床になっているとされる一方、強固なコミュニティがあることでも知られている。

その1つ、パライゾポリスは、12万人が住むサンパウロ最大のファベーラだ。サンパウロ有数の高級住宅地モロンビーに隣接し、住人の中には家事手伝いとして働く人も多い。こうしたところで働く1人が、海外旅行から帰ってきた雇用主経由でコロナウイルスに感染。パライゾポリスの住民にも、ウイルスの感染拡大が始まった。

こうした中、34歳のリーダーは、なかなか動かない政府を待たずに、素早い決断を下した。独自に医者、看護師と契約し、コロナウイルスによるファベーラ拡散を防いでいる。こうした動きは、サンパウロだけでなくリオ・デ・ジャネイロのファベーラでも起きている。

大統領の支持率は依然高い

さらなる感染の危険にさらされているのが、ファベーラにも住めず、路上生活まで身を落としてしまった人々である。外出禁止令が発令され、通行人が普段と比べ格段に少ないせいか、路上生活者が道でゴロゴロ寝ている姿が目に付くようになった。スーパーやコンビニの出入り口周辺には数人の路上生活者が、店から出てきた買い物客に食べ物や小銭を乞う姿をたくさん見かける。

一時期、セントロから路上生活者が少し消えた時期があった。おそらく、市のボランティアから収容施設を勧められ、行く人が多かったのであろう。しかし、またもとのたまり場に路上生活者を見るようになったことを考えると、行ってはみたものの、そのような施設にいることに耐え切れなくなる人が多かったのであろう。 

コロナウイルスの感染拡大が続き、これによる景気低迷が避けられない見通しとなっている中、国では、中小企業への援助など対策案がさまざま出されているが、これまでに実際決まったのは、自由業者と低所得者に月600レアル(約1万2000円)の3カ月間配給だけである。

ボルソナロ大統領はテレビで国民に対し、たびたび話しているが、なかなか決定されない対策案に、国民の多くは鍋を打ち鳴らして抗議をするパネラソンを行っている。

それでも、ブラジル有数の調査会社ダッタ・フォーリャによると大統領の支持率は依然として高く、58%に上る。国民の半分以上はコロナウイルスも怖いが、食べられなくなることも恐れているのであろう。

ブラジルのような新興国では、低所得者が多く、たとえ、防疫に成功しても、経済活動がストップすると、とたんに食べられなくなる人が続出し、死亡者が出る可能性も高い。欧米諸国のような多額の援助を国民にすることはとてもできない。コロナウイルスの防疫と経済活動はどちらも同じように重要である。それだけに、政府の舵取りは非常に難しい。

楮佐古 晶章 フォトジャーナリスト(在ブラジル)

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かじさこ あきのり

フォトジャーナリスト。北海道大学農学部卒業。JICA(国際協力機構)の開発青年で渡伯して、気が付けばブラジルに住み着いて20年以上。TV特派員の助手、邦字雑誌などの仕事を経てフリーに。サンパウロのセントロにある築60年以上の古いアパートに住み、毎日、街を撮影しながら徘徊している。

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