政府の遅いコロナ対応に「IT化」が不可欠な理由 「緊急事態宣言」が出てから混乱を極めている

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緊急事態宣言で指定された対象地域の複数の知事から、休業要請をする際について休業補償を行うべきだという意見が出ている。対して、政府は、売り上げの補償はできないとの回答をした。これについては筆者もまったくその通りだと思う。

売り上げの補償となれば、コスト部分まで政府がお金を払うことになり、中小企業、自営業者にとっては、濡れ手で粟となる。新型コロナ拡大の緊急時に必要とされているのは、雇用の保証であるのだから、補償の範囲は、中小企業、自営業者に勤める従業員の雇用を守るための給与相当額の補償が妥当ではないか。

それでは、中小企業、自営業のオーナーの所得が補償されないと反論する人もいるものと思うが、彼らは自らリスクを取って事業に乗り出しているのであり、そこまで政府が面倒をみるのは行きすぎである。

こうした従業員の雇用を守るための制度として、我が国には雇用調整助成金という制度がある。企業が従業員を企業都合で休職させる場合、その一部を国が助成するという制度で、現在は特例により、中小企業で10分の9、大企業で4分の3まで助成するようになっている。

しかし、ここでもスピードの問題が立ちはだかる。政府は、ハローワークに提出する申請書への記載項目を半減させることで、これまで2カ月かかっていた支給までの期間を1カ月にしようとしている。だが、もう少し抜本的にスピードを上げる方法が求められる。

コロナ危機でIT化を加速させる必要がある

金融機関の窓口、ハローワークの窓口で申請をするときに時間がかかるのは、申請書類を紙で提出し、添付書類もすべて紙で取得して添付しなければならないからである。

申請書類の提出をすべて電子メールで可としてしまえば、申請者は窓口へ行く必要がなくなる。会社ごとに法人番号を与え、税務署のデータも、法務局のデータも紐づくようにしてしまえば、金融機関もハローワークも申請書に書き込まれた法人番号からデータを取得して、すぐに審査ができる。

面談が必要なら、それもテレビ会議などで可としてしまえば、あっという間に終わるだろう。そして、電子審査で済ませれば、スピーディーな融資や助成金の支払いの実行が可能となるはずである。

これは、所得急減世帯に給付するという30万円についても同じである。すべての国民がマイナンバーを持ち、それに住民票のデータ、前年度の所得のデータが紐づいていれば、一定の所得以下の世帯を抽出することが瞬時に可能となる。

つまり、緊急時のスピード対応を可能とするためには、政府のIT化が必須ということである。

プライバシーの問題、IT弱者の問題などから反対する人も多いが、そこは国民への説明、例外措置の整備を設けることで、対応できるのではないか。コロナ危機を契機に、政府がIT化に大胆に踏み切る必要がある。

植田 統 国際経営コンサルタント、弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授

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うえだ おさむ / Osamu Ueda

1957年東京都生まれ。東京大学法学部を卒後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。ダートマス大学エイモスタックスクールにてMBA取得。その後、外資系コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)を経て、外資系データベース会社レクシスネクシス・ジャパン代表取締役社長。そのかたわら大学ロースクール夜間コースに通い司法試験合格。外資系企業再生コンサルティング会社アリックスパートナーズでJAL、ライブドアの再生に携わる。2010年弁護士開業。14年に独立し、青山東京法律事務所を開設。 近著は『2040年 「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)。

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