中国が「新型コロナに勝利」を強調する事情 対外的なプロパガンダ戦略「大外宣」を発動

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中国の初動の遅れや情報の隠蔽工作疑惑を非難する声は、国外からも数多く出ていた。それを変えたかった中国にとって、プラスに働いたのが新型肺炎の正式名称だ。WHO(世界保健機関)は新型コロナウイルスを「2019-nCoV」と命名し、「武漢ウイルス」や「武漢肺炎」という俗名がなくなった。新しい名称は、ウイルスの発生源と中国との関係性を表面的には薄めることになった。

続いて中国は、新型コロナウイルスに関連して主導権と発言権の獲得に動き出した。注目すべきは、感染が拡大するイタリアへの支援を決めたことだ。両外相の電話会談の後、中国はすぐにイタリアへの医師団派遣と医療物資を提供している。これは「中国には新型コロナウイルス対策のノウハウがあり、世界を助けることができる」とアピールする狙いがあったとみられている。

「発生源は中国ではない」と強調

そのほかにも、中国はWHOに2000万ドル(約21億円)を寄付し、日本や韓国にマスクや防護服などを提供。このように行動することで、当初ウイルスの蔓延を制御できず、面子を失った中国から、「世界の友好国」としての中国に変身しようとしているのだ。

感染拡大の責任回避も狙っている。その最たる例が、前述の趙副報道局長の投稿だ。ツイッターに投稿したのは、習主席の武漢視察から2日後の3月12日。視察によって勝利ムードを醸し出した直後に、まるで事前に計画されていたかのようなタイミングで「ウイルスの発生源は中国ではない」と主張したのだ。

だが、そんな根拠のない発言にアメリカが黙っているはずがない。アメリカ国務省は13日までに崔天凱中国大使を呼び出し、厳重抗議を申し入れている。しかし、趙氏は依然として「ウイルスのアメリカ起源説」を主張し続けた。

その後、ポンペオ国務長官は中国の外交担当トップである楊潔篪氏と電話で会談し、趙氏の一連の発言について「中国は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の責任をアメリカに転嫁している」として厳重に抗議したことを明かしている。同時に「今やるべきことは、根拠のない情報の拡散ではなく、すべての国がウイルスの脅威に対し共同戦線を張ることだ」と訴えた。

ウイルス発生源をめぐる米中の舌戦にトランプ大統領も参戦し、新型コロナウイルスのことを「チャイナウイルス」と表現、波紋を広げる結果になった。

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