救済策は?コロナ禍で地方交通が壊滅的危機 「緊急時も公共交通は維持」と国は言うが…

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鉄道網が発達していない地方は、路線バスが公共交通としての重要な役割を果たす。それが感染症拡大下の経営では、大きな負担になっている。「公共交通は生活や社会的機能維持のためにどのような状況においても、できうる限りの路線維持の必要があり、減収になっても大きな減便休止等の策を打ちにくい」と小嶋氏は指摘する。

例えば、全国的な学校の休業要請。路線バスの利用者の大きな割合を占める、この春からの通学者が見込めなかった。

「感染予防のため家族のマイカー送迎を勧める動きもある。休校になると影響が大きいが、それでも運行を止めるわけにはいかない。一般的には利用者減少に連動して減便すれば、運転者を休ませることができる。しかし、できるだけ運行を維持しなければならないうえに、恒常的に運転者が高齢化して不足している公共交通では、それもできない。国が経済対策を打ち出しても、特に雇用調整はほとんど使えない状態」(小嶋氏)

収束後より現在の対策を

安倍晋三首相が緊急事態宣言を発出した7日午後、国土交通省は2020年度の補正予算の概要を公表した。

補正予算の柱は観光庁が執行する観光需要の喚起策。1兆3500万円の規模は史上ない予算規模で、宿泊費など旅行商品の半額を、1泊上限2万円まで支援する。観光目的なら連泊の上限はない。約6カ月の期間で5000万人泊分を見込んでいる。

国土交通省関連以外にも、農林水産省関連で飲食店を利用した場合に1人1000円分のポイントを付与するなどのキャンペーン、中小企業庁関連でイベントチケットを購入した場合の20%分の割引クーポンを配布するキャンペーンなども合わせて、需要喚起につなげる。

ただ、これらはどれも感染症の流行収束後に実施するもので、具体的な実施時期は見通せない。地方交通のシンクタンクである地域公共交通総合研究所の代表理事も務める小嶋氏は、こう提言する。

「まずは地方生活交通維持のために減収補助の特別補助金を新設していただきたい。地域間交通維持・確保に向けた補助金要件に新型コロナウイルス対策を加えて、地方自治体などの公共交通補助を緩和してほしい。従業員に感染者が確認された場合の医療的措置と政府保証の政策パッケージの投入もお願いしたい」

安倍首相が打ち出した感染拡大の瀬戸際はじりじりと後退し、緊急事態宣言が大型連休明けまで続くことになった。予測不能の将来より、困難に直面する今必要な救済を、「国民生活、経済活動を支える最重要のインフラ」が求めている。

中島 みなみ 記者

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なかじま みなみ / Minami Nakajima

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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