「新型コロナ大恐慌は来ない」と断言できるか 雇用状況はこれから悪化、インフレリスクも

拡大
縮小

恐らくは5月8日に発表される4月の雇用統計では雇用数が数10万人単位の大幅な落ち込みとなり、失業率は一気に上昇、3月の数字も大幅に下方修正されることになるだろう。

雇用関連以外の経済指標も、3月や4月の発表分からは急速に悪化する可能性は高い。もちろん、こうした景気の減速はある程度織り込み済みだ。とはいえ、実際に衝撃的な数字を目の当たりにすれば、やはり初期反応としては改めて売りが加速する可能性が高いと見ておくべきだ。新型コロナウイルスの感染拡大がいつ収束に向かうのかにもよるが、少なくともあと1~2カ月は下落基調が続くと見たい。

ウイルス感染一服後は、悪いインフレがやってくる

それでもウイルスの感染拡大のペースが鈍り、都市機能が回復してくるようになれば、景気対策法案の効果も徐々に表れ、相場は落ち着きを取り戻してくるだろう。

早ければ夏前にも、ほっと胸をなでおろすような状況がやってくるかもしれない。もっとも、それで全てが良い方に動いていくとは限らない。次に待ち構えているのは、繰り返し述べているように、供給不足を背景としたコスト・プッシュ型の悪いインフレの台頭である。

中国を中心に生産活動が大幅に落ち込んだことで、世界市場はかなりの供給不足の状態に陥っている。足元では需要がそれ以上に落ち込んでいることもあり、ほとんど影響は見られないが、各国政府の景気対策によって需要が回復してくるにつれて、インフレの問題は一気に深刻化する恐れがある。

特に警戒が必要なのは原油価格の乱高下

特に警戒が必要なのは、原油市場の動向だ。足元では需要の落ち込みに加え、サウジやロシアが増産の意向を示していることから、底割れの状況が続いているが、それによって米国のシェールオイルなど、比較的コストの高い油田の開発が停止、生産が大幅に減少するのは避けられないだろう。

油田の生産は一度止まってしまうと、その後再開しようとしてもかなりの時間と手間を要する可能性が高い。こうした形で供給に不安が生じる中でサウジが方針を転換、再び大幅な減産に転じることがあれば、原油価格は1バレル=80ドルあたりまで一気に値を戻すことも考えられる。

エネルギー価格の急伸によってインフレ圧力が強まれば、米連邦準備制度理事会(FRB)は無制限の量的緩和どころか、インフレ抑制のために利上げに転じざるを得なくなるだろう。

それまでに景気がしっかりと回復していればよいが、まだ不安定な状態で金融が引き締められるようなことになれば、再び大きな株価下落が待ち受けているかもしれない。夏の終わりから年末にかけては、これまで以上に原油市場と物価動向に注意を払うべきだ。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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