木梨憲武が「レギュラー番組0本」でも余裕な訳 相方・石橋貴明も認めた「天才中の天才」

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木梨は出会った人の懐に飛び込み、すぐにその状況を楽しんでしまう。彼にとって仕事とは、友達とワイワイ楽しく遊ぶことの延長線上にある。彼の音楽活動に大物アーティストたちが協力を惜しまないのも、ひとえに彼の人間的な魅力によるものだ。

もちろん、単に機嫌がいいというだけなら、芸能界でこれほどの活躍をすることはできなかっただろう。「芸の人=芸人」としての木梨の根底にあるのは、その天才的なセンスだ。大した練習をしていなくても、歌やダンスや物まねがうまく、何をやらせてもそれなりにこなしてしまう。コントを演じたりバラエティー番組で暴れたりするときにも、キレのある動きで見る人を魅了する。

また、番組の企画から始まったアーティストとしての創作活動にも力を入れていて、現在も絵画の個展を開催している。

木梨にとっては「仕事」も「遊び」も等価値

木梨の卓越したセンスの源にあるのは、自転車屋だった父親譲りの職人的な感覚ではないか。木梨の実家が自転車屋を営んでいるのは有名な話で、彼は父親の話もテレビでよくしているが、その父親自身は寡黙な職人気質の人物だ。木梨もその血を受け継いでいる。

運動神経がいいと言われる人は、他人の動きを見てすぐにそれを盗める人だという。木梨には確実にそのようなセンスがある。だから、物まねも、歌も、ダンスも、アートも、恐らくお笑いさえも、見よう見まねだけでビシッと決めることができるのだろう。

相方の石橋はインタビューなどでも「憲武は天才。あいつを超える芸人はいない」などと木梨のことを絶賛している。横に並ぶ者として、木梨の類まれなる才能を誰よりもよくわかっているからこその発言だ。

歳を取ると柔軟な思考ができなくなり、頑固になってしまう人も多いものだが、木梨は還暦間近とは思えないほど相変わらずの自由奔放な生き方を貫いている。恐らく、彼にとっては「仕事」と「遊び」は初めから同じものなのだ。仕事が遊びであり、遊びが仕事。だからストレスもたまらないし、他人にも優しくできる。

自らの老いを受け入れ、明るく笑い飛ばす木梨の生き様は、これからも超高齢社会を迎えた日本に住む多くの人を勇気づけることになるだろう。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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