トランプと対峙する民主党有力候補4人に注目 バイデン氏とサンダース氏を中心とする動き
以上の3つの国際秩序観は、民主党有力候補4人の外交姿勢を考えるうえでも重要である。すなわち、今日の民主党では、主流派の外交路線と「プログレッシブな外交」の路線対立が鮮明になりつつあり、こうした亀裂は、有力候補4人の間にも見られるのである。
すでに述べたように、党内左派のサンダース氏とウォーレン氏は、「プログレッシブな外交」を主導する存在であるが、対照的に、党内穏健派のバイデン氏とブティジェッジ氏は、総じて主流派の外交路線に近い主張をしている。
中でも、バイデン氏とサンダース氏の両者は、外交政策の分野でも、党内の亀裂を象徴する存在になっている。1月3日のトランプ政権によるイラン司令官殺害以降、両者は外交政策に関する発信を強めているが、主張の中身はまさに好対照である。
バイデン氏は、自身の外交経験、各国指導者とのつながり、アメリカ軍関係者からの支持表明の多さなどを誇示し、トランプ政権の振る舞いによって傷ついたアメリカの地位をすぐさま再建するとの意向を前面に出している。
対照的にサンダース氏は、自身が政界アウトサイダーとして主流派の外交路線に異議を唱え続けてきたことや、海外への軍事介入に反対してきたことを強調し、アメリカ外交には変革が必要であるとの見方を鮮明にしている。
外交政策をめぐる民主党内の亀裂
こうした民主党内の亀裂は、各候補を支える外交顧問の顔ぶれを把握するうえでも重要である。というのも、民主党系外交専門家の間では、党内穏健派のバイデン氏とブティジェッジ氏に対して、支持表明をする動きが目立っているからである。
外交専門家の多くが民主党歴代政権の中に身を置いて、主流派の外交路線に携わってきたことを踏まえると、両者に支持が集まるのは、当然の流れとも言える。バイデン陣営では、オバマ政権期に国務副長官を務めたブリンケン(Tony Blinken)氏などが、ブティジェッジ陣営では、オバマ政権期に国務次官補(広報担当)を務めたウィルソン(Doug Wilson)氏などが、外交顧問として陣営の活動に携わっている。
これに対して、党内左派のサンダース氏とウォーレン氏については、外交専門家からの支持表明が相対的に少ない。サンダース陣営では、外交専門シンクタンクの中東平和財団で所長を務めていたダス(Matt Duss)氏などが、ウォーレン陣営では、ヴァンダービルト大学教授のシタラマン(Ganesh Sitaraman)氏などが、外交顧問として陣営の活動に携わっている。
しかしながら、外交専門家の支持を集める穏健派の2人が、外交論戦で攻勢に出ているかというと、必ずしもそうはなっていない。むしろここまでのところは、左派の2人のほうが精力的に外交関連の発信をしており、「プログレッシブな外交」の考え方が、民主党のスタンダードになりつつある争点もある。
また、この点と関連して興味深いのは、群を抜いて豊富な外交経験を持つバイデン氏が、これまで外交論戦を積極的に仕掛けてこなかったことである。すでに述べたように、トランプ政権によるイラン司令官殺害をきっかけに、バイデン氏も外交関連の発信を強化しつつある。ただバイデン氏の経歴を踏まえると、それまで消極姿勢を貫いてきたことは際立った態度であった。
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