正社員は既得権益か? 湯浅誠氏・城繁幸氏が、雇用、セーフティネットを巡り徹底討論
大企業正社員が邪魔をしているのか
城 大企業は職業訓練を受けたとしても、非正社員を正社員として迎えるつもりはないですよ。正社員の解雇規制を緩和しろというと財界べったりと批判されますが逆です。トヨタ自動車もキヤノンも終身雇用でいくと言っている。要するにウチの正社員は終身雇用でいきます、ただ非正社員は雇用の調整弁で使いますよと彼らは言っているわけです。
湯浅 派遣法の規制強化の問題(→用語解説3)も、二言目には人件費増に耐えられず潰れる、海外に逃げると言われますが、企業はなぜ期間工なりアルバイトなりの直接雇用でなく間接雇用の派遣の活用を望むのですか。かえってコスト高となりそうですが。
城 二つあります。一つは人材募集、管理の負担を委託できる。もう一つは直接雇用することで労使関係が生じてしまう。そのリスクをヘッジするために派遣会社を間に入れているのです。だから、もし解雇の金銭解決が導入されて、たとえば2~3カ月分の給与を上乗せするなら何年契約社員をしてても解雇できるとなれば、大企業は派遣会社なんて使いません。
湯浅 城さんの考えでは諸悪の根源は解雇規制ということになるわけだ。私もフレキシキュリティ政策は評価しますが、それは失業しても生きていけるという状態がなければ無理ですよね。失業しても生きていける、たとえば職業訓練に対する企業のコミットメントなど外部労働市場をつくることに企業も参加してもらわないと。そう問題を立てないと実際に物事は動かなくありませんか。
城 職業訓練を受けた人でも採らない一因は年功序列賃金にあります。そこを変えないと何兆円職業訓練につぎ込んでも実りはないですよ。
湯浅 大企業の正社員がどれだけのパイを奪っているんでしょうか。そんなに敵は大きいのかと疑問に感じてしまう。経営者報酬や株主配当のほうが問題になりませんか。
城 経営者の報酬は大体大手の平均で5000万円くらいですよ。その会社の正社員の5倍未満です。上場していると赤字転落ともなれば大幅に下げないといけないし、その意味で彼らは責任を取ってますよ。株主配当で言うと配当性向は欧米の主要企業と比較しても4割程度と高くはない。だからそれよりむしろ、日本の大企業全体を覆う正社員サロン、中小企業や非正規労働者を使うことで維持しているヒエラルキーのほうが大きな問題だと思っています。