自衛隊が「領海侵犯やテロ」に対抗しにくい根因

中東派遣に見えるグレーゾーン事態への難しさ

こうした自衛隊本来の任務である防衛出動に至らない事態を「グレーゾーン事態」と呼ぶが、防衛出動が発令されていないので、自衛隊は組織的な武力を行使することを認められていない。この段階においては、あくまで自衛官個人が、「警察比例の原則」に従い、警察官や海上保安官と同レベルの武器使用が認められるのみなのである。

憲法9条を抱く我が国の法体系は、国権の発動である自衛権に基づく「武力行使」と、自衛官個人の正当防衛権を活用した「武器の使用」との間に明確な線を引いている。したがって、「武器使用」においては、正当防衛・緊急避難の場合を除き、人に危害を加えることができないのである。

(制作:TOKYO MX『モーニングCROSS』)

グレーゾーン対処の法体系整備が必要

冷戦終結後、主要大国間の高強度紛争が発生する可能性は極めて低くなった。冷戦時代の自衛隊はソ連による侵攻に備えることを目的としていたが、21世紀において対処すべきは、尖閣問題、台湾危機、朝鮮半島有事などの中強度紛争(地域紛争)や領海侵犯や国際テロなどの低強度紛争(グレーゾーン)へと移っていった。

本来はこうしたグレーゾーン事態に対応できるような安全保障体制を整備する必要があったのに、2015年の安全保障関連法案を巡る議論では集団的自衛権が論点の中心となってしまった。その結果として、グレーゾーン事態における武器使用の基準については、明確な対策がなされていないままなのである。

1990年代以降、後方支援やPKO、海賊対処など自衛隊が海外に派遣される機会は飛躍的に拡大した。それにもかかわらず、派遣される自衛官に認められた武器使用基準は、国際標準と乖離したままである。

政治は、国際社会におけるプレゼンスを示すために自衛隊を派遣することについては非常に熱心である。しかし、実際に現地に派遣された自衛隊にとっては、派遣の決定は終わりではなく始まりであるのに、実際にどのような運用を行っているかについては政治家も国民も十分な関心を持っているとは言いがたい状況である。これでは現場に政治を押し付けていると言われても仕方がないだろう。

PKO派遣がなされた南スーダンのジュバにおいて激しい武力衝突があり、自衛隊が撤退を余儀なくされたのは記憶に新しい。

幸いなことに、これまで海外派遣された自衛官に殉職者は出ていないが、今後もそうであるとは限らない。実際に何かがあってからでは遅い。自衛官が少しでも安心して現地に赴くことができるよう法体系を整備することは急務であり、そのためにも国民全員が当事者意識を持ってこの問題について議論することが必要である。

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