おっさんと住む元アイドルの揺れ動く「結婚観」 能町みね子×大木亜希子、「結婚」を語り合う
大木:まったく向いていないと思いますね(笑)。恋愛のようなまね事をしたことはありますが、1人の人と真剣に向き合う経験はありませんでした。唯一思い当たるのは、新刊に登場した1人だけです。その人のことだけは、心から愛していました。
クリスマスを男の人と過ごしたいなどという、形式にはすごくこだわっていました。20代はずっと、虚構と理想と繊細な心がちぐはぐでした。
能町:形式に憧れるという意味では私と同じかもしれない。子供の頃からマンガなどで刷り込まれて、クリスマスにデートしたり、バレンタインにチョコレートを渡したり、一通りやらなければいけないという強迫観念のようなものがあったんです。
それを楽しいと思える人はいいけど、やらなければいけないと思いながらするのは違いますよね。でも私は、彼女だったらやらなければいけない、と思いながらやっていました。
大木:「恋愛のまね事をしたい、女性とはこうあるべきだ」という気持ちで恋愛に突っ走る呪縛ってありますよね。
能町:30代はそういうものをどう克服するかの10年でした。今はほぼ克服したと思います。ゲイライターのサムソン高橋さんを「夫(仮)」ということにして、「結婚」と称して一緒に暮らすことにしてから、恋愛感情はなくても心が安定しているんです。「とりあえずこれで、いったん完成形でいいや」と思えるようになりました。
大木:それはうらやましいですね。
能町:恋愛がまったく何もないのはさみしいとうっすら思うときもあります。でも今のところサムソンさんとの関係は安定しているので、安心感があります。ササポンとは永久的な関係ではないんですよね?
ササポンとの同居は2年後に一区切り
大木:はい。2年後にササポンが定年退職されたら軽井沢に引っ越すことになっているので、そのタイミングで家を出ることになっています。
能町さんは、サムソンさんと「夫婦」という形がありますが、私の場合、ササポンの存在は一時的なシェルターであり、2年後の自分がどのようになっているか不安で、その繰り返しです。
能町:私も30代の頃はまったく安定していなくて、いずれは結婚したいと思いつつ、恋愛の形式は面倒臭いと思うようになっていきました。料理やお菓子を作ってあげるような、超ベタな彼女らしい振る舞いは、私には無理だということを悟った時期ですね。
大木:恋愛プレイは無理だということがわかったんですね。
能町:でも、プレイをせずに自然体でいようと思って付き合った彼氏にはすぐに振られたので(笑)、それはそれでダメなんだと学習しました。かと言って自分を曲げられないし、もう私は恋愛は向いていない、と放り投げました(笑)。
そこから数年後に、恋愛ではなく「結婚」をしようと思うようになったんです。
大木:どんどん要らないものを削ぎ落していき、総当たりでいろんなマニュアルを試した結果、今に至るわけですね。
能町:これはあくまでも私の例なので誰にでも当てはまるとは思いませんが、『結婚の奴』では、こういう形を結婚と呼んでもいいよね、ということを伝えたかったんです。もちろん、本当にお互いが好きで結婚して仲良くやっている人たちに文句を言うつもりはありません。
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