行政文書を捨てない「ドイツ」のアーカイブ感覚 専門の教育を受けているアーキビストがいる
アーカイブで働くアーキビストの資質も見るべきものがある。彼らは歴史的知識、複雑な思考スキル、ラテン語などの言語スキルを有している。ドイツは一般に職業教育が強いが、アーキビストも同様で、専門の教育がなされている。後に述べるが、この歴史的知識の有無がとても大切だ。
中央政府全体のアーカイブは現在の連邦アーカイブに先立ち1919年に「中央アーカイブ」として設立された。他のヨーロッパ諸国に比べると遅かったが、アーカイブそのものは中世からある。
年度始まりの9月に起きること
また日本に目を転じると、昔から記録類を残す重要性は認知されており、数々の古文書があるのはその証左だ。むしろなぜ、現代日本がこれほど文書類の扱いがずさんになったのか考察する必要もあるだろう。
しかし本稿ではドイツの強い「アーカイブの感覚」がなぜあるのかについて続ける。この感覚はドイツの人々が一般に持っているように思われる。ドイツに住む筆者にとって、それを感じるのが、年度始まりの9月。書類をファイリングするバインダーがスーパーの特売品として大量にワゴンに並ぶのだ。スタンダードのバインダーは幅8センチ程度。A4の用紙を保管していけるものだ。
この理由は明らかで、授業で大量に教材としてプリントが配布される生徒や学生のためでもあるが、新しい年度がはじまり、証明書や領収書の類を保管するためだ。
もとより、ドイツは文書類を大量に作り、何かにつけ文書・証明書類を重要視する「文書国家」だ。実際、ドイツの人々は出生証明書から成績表、職業証明書まですべてきれいにファイリングしている。個人でさえこうなのだから、官庁、企業、非営利組織などは言わずもがなだ。
個人的な体験をいうと、「ドイツという国は『文書主義』の国だね」とドイツの友人に少々皮肉っぽく話したことがある。友人は「む、いや、そのとおり」と肩をすくめて、ニヤっと笑った。
この「文書主義」を歴史的にさかのぼると、ローマ時代あたりから見いだすことができる。ローマ帝国は紀元前4世紀あたりから、イタリア半島からアフリカ、アジアにまで勢力を伸ばした。各領域はローマと同盟を結ぶかたちで統治を行ったが、言語や文化も異なる領域を統治するにはラテン語の文書をベースに執り行った。
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