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行政文書を捨てない「ドイツ」のアーカイブ感覚 専門の教育を受けているアーキビストがいる

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  • 高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト
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中世の都市も文書の保管は大切だった。都市は領主に対して自治権などを獲得していくが、その証明書がとても重要だったからだ。

また中世都市は市壁に囲まれた人工空間だった。壁の内と外が明確で、市壁は明示的な「国境」のようなものだ。そのためパスポートといった「証明書」の感覚も強くなる。そして内側では当然、管理や所有関係など重要な公文書も出てくる。また、公文書によって人々の権利が保証される案件もある。この感覚が先述した年度始まりのバインダー販売ともつながっているように思えてならない。

文書類の永久保存を決めるのは政府ではなく、アーカイブ。後世の歴史を考慮して残される(筆者撮影)

翻って、都市文書類を蓄積しなければどうなるか? 都市の信頼性を失い、アイデンティティーを証明できなくなるだろう。ましてや改ざんや、後世を考えずに廃棄をしてしまうと信頼性は言うにおよばず、都市のアイデンティティーすら怪しげなものになる。

現代ドイツの都市は日本に比べると小ぶりなところが多いが、小都市でも自律性と自立性が比較的高い。これは地方分権の傾向をつくる連邦制など、制度的な理由もあるが、公文書の蓄積で作られてきた、「独自の歴史がある自立したわれわれの都市」という感覚のひとつの背景だ。

そして現代においては、自治体はアーカイブを設置する義務と権利を有している。

歴史とアーカイブへの偏執的態度

自治体のアーカイブには行政文書、新聞、書籍、写真、フィルムなどかなりのものを保存している。働いている人たちも専門教育を受けたアーキビストで、修士・博士号の取得者も多い。

アーカイブに保管されているものは、自治体の「物語」とでもいえる歴史の源泉であり、言い換えれば「都市の背骨」である。それが都市のアイデンティティーを作るわけだが、「国」に置き換えてもアーカイブの重要性は十分見いだせるだろう。行政の記録ということ以上に、国や自治体というコミュニティー全体の記憶なのである。

地元のミュージアムや歴史・郷土クラブなどと協力することも多い。節目に展覧会の開催や歴史書が書かれるが、アーカイブがその第一次資料だ。当然のことだが、過去の歴史は時代によって評価が変わる。展覧会や出版される歴史書は、その時代の目で都市の過去を見直すことにほかならない。

自治体の元市長、その前の市長による対談。自治体アーカイブの主催(エアランゲン市にて筆者撮影)

同時に人間の行動には時代が変われども普遍的なものもある。歴史をきちんと見るということは、現在と未来を理解するということだ。「歴史的専門知識」を持つアーキビストたちは、こういうことをよくわかっているのだろう。そんな彼らが、大量の行政文書から後世に残すものを選んでいるのだ。

現代において行政文書の保存はデモクラシーにとって重要であることは言うまでもない。同時にドイツの都市を見ていくと、歴史から導かれるアイデンティティー、都市の独立性と信頼性などのためにアーカイブは不可欠という態度がある。これが行政文書を捨てない感覚を作っているのだと思う。

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