演奏に順番待ち、江古田「駅ピアノ」は誰が弾く?

西武鉄道や地元大学の熱意で実現

コンコースに上がりピアノに近づいていくと、横を通り抜けていく小さな影があった。筆者を追い抜いていった幼稚園児ぐらいの男の子がさっといすに座り、楽しそうに鍵盤をたたき始めた。適当に弾いているようではあるがかわいいメロディーになっている。

ピアノの横に立っていると男の子が鍵盤から指を離さずニッコリ笑って、「うちね、ピアノがないの! だから駅に来るたびに弾いているんだよ!」と教えてくれた。お母さんも「まさか駅でピアノを好きになってくれるとは思いませんでした」とうれしそうに話していた。

男の子がお母さんに促されて帰った後は、オシャレな男子学生2人が来て交互にはやりの音楽を弾いて帰った。途中でつかえては照れくさそうに笑いながら始終楽しそうにピアノと触れ合っていた。

ほんの10分ほど滞在しただけでわかった。ピアノと江古田駅は、とても相性がいいということが。

「学生の思い」を形に

昔からここにあったように江古田駅になじんでいるピアノではあるが、1つの駅にピアノを設置し、自由に弾いてもらうという決断は決して容易なことではないと思う。なぜ西武鉄道は江古田駅にピアノを置こうと思ったのか。またそこに至るまでどのようなストーリーがあったのか。西武鉄道株式会社 鉄道本部 計画管理部の渡邉奈緒さん、矢吹文香さんに話を聞いてみた。

西武鉄道の渡邉さん(右)と矢吹さん(左)(筆者撮影)

普通に考えれば、音楽大学がある江古田駅にピアノを置くことにより「音楽の駅」として他駅との差別化を図るということだ。しかし渡邉さんによると、駅にピアノを置くことありきで発想されたものではなく、ただ江古田という街を盛り上げていきたい、という気持ちだったという。

若い世代である江古田駅周辺の日本大学芸術学部、武蔵大学、武蔵野音楽大学3つの大学の学生たちが江古田の街を好きになってくれるとうれしい。「学生の思い」を知り、それを形にするには何をしたらいいだろう。

さっそく、3つの大学に声をかけてみた。さまざまな意見交換を経て構想したのが、江古田駅周辺にある日本大学芸術学部、武蔵大学、武蔵野音楽大学の3大学と連携して行った「江古田キャンバスプロジェクト」である。

大学の敷地空間を示す「キャンパス(campus)」ならぬ、「キャンバス(canvas、画布)」。若い人たちの柔軟な発想を借り、周辺の街をキャンバスに見立てて自由に表現してもらおうという意味をこめた。

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