大塚明夫「声優の大多数が仕事にあぶれる理由」 300の椅子を1万人以上が奪い合っている

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なぜ、「仕事にあぶれる声優」が多いのでしょう。それは簡単な話で、「声優」の数が増えすぎたからです。「声の仕事」は、現在声優と名乗れる立場の人間の数に対してあまりにも少ない。

日本の「声優」の歴史をみると、1960年頃から洋画や海外ドラマの吹き替えが多く制作され始め、「声だけの芝居をする役者」が大勢求められるようになったことがわかります。声優という言葉自体は1940年代からありますが、戦前は主にラジオドラマがその活躍の場で、今私たちが「声優」として思い浮かべる像とは少し違いました。

例えるならば1960年代は、50しかない椅子に、50人の役者が余らず座っているような状態でした。「声だけが必要とされる仕事」が先にあり、それを埋めるため、各配給会社が新劇の舞台役者や売れないテレビ俳優を引っぱってきていたので余りようがないのです。「声優なんてのは売れない役者の成れの果てだ」と見なされていた時代の話です。

300の椅子を1万人が奪い合う状態

では、今はどうかというと、300脚の椅子をつねに1万人以上の人間が奪い合っている状態です。確かに30年前に比べて、声優が求められる場は多くなったと私も思います。2000年代に入ってからアニメの制作数は激増し、フルボイスのゲームも今や珍しい存在ではありません。

しかしそれでも、です。椅子の数も増えましたが、1万人の声優を食わせられるほどの増え方ではありません。異常に競争率の高い仕事を血眼で奪い合うゲームが続いています。

極端な言い方をすれば、声優になったところで、もらえる仕事自体はろくにないということです。そうすれば当然生計も成り立ちません。しばしば噂されているらしい「声優の多くはアルバイトとの掛け持ちで活動している」という話はまぎれもない事実です。

かくいう私自身、30歳近くになるまで土木のアルバイトを続けていました。幸い私の場合は早々にそうした時期を終えることができましたが、30代、40代になっても「専業声優」になれない人も珍しくありません(もちろん、自分の意志で「ならない」人もいます)。

こんなに商売として成り立っていないものを、安易に将来の「職業」として選ぶのは危険です。即刻やめたほうがいい。実家が裕福でいくらでもすねがかじれるとか、声優が駄目でも実家の稼業を継げばいいとか、いつでもしっかりした勤め人のお嫁さんになれる身分だという人間でない限り、近づかないのが正解です。

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