アベノミクスの円安効果に「誤算」 輸出・物価への効果一過性の懸念

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ホームメイドインフレに程遠く

円安効果の当てが外れたのはそれだけでない。安倍晋三首相はじめ、黒田東彦日銀総裁も、円安による輸入原材料の価格転嫁だけでなく、幅広い物価上昇が起こっているとの認識を示しているが、そうとも言えないようだ。

というのも、消費者物価はプラス1%を超えているが、輸入物価上昇分を差し引いたGDPデフレータでみると、10─12月になっても前年比マイナス0.4%と、いまだプラス圏に浮上できていない。輸入物価上昇分さえ十分に価格転嫁しきれおらず、まして需給の引き締まりや賃金上昇など国内要因による物価上昇は起こっていないことを示している。

「日本ではまだ、ホームメイドインフレは起きていないということ」──。内閣府幹部はGDPデフレータが下落を続けている意味をこう解説する。

輸入品の価格上昇は、海外への所得流出にほかならない。 みずほ銀行マーケット・エコノミスト・唐鎌大輔氏は「円安によるデフレ脱却シナリオは、CPIを引き上げることはできても、海外への所得流出という致命的欠陥を抱えるために、デフレの正体であるGDPデフレーターの下落を止めることは難しい」と指摘している。

企業の慎重姿勢根強くデフレ逆戻りリスク

円安とともにデフレ脱却のカギを握る賃金動向だが、企業の腰は重そうだ。2月のロイター企業調査によると、今年の春闘で賃上げを実施すると回答した企業は全体の30%にとどまり、賃上げを実施しないと回答した37%を下回っている。

賃上げ実施方針の企業でも、ボーナスなど一時金での対応にとどまる企業が6割を超え、持続的な所得水準の底上げにはつながりにくい。「固定費の増加は何としても避けたい」との声が圧倒的に多いのが実情だ。一時金対応にとどまれば、持続的な所得底上げにはつながりにくい。

こうした状況のもとで、企業自身が再びデフレに舞い戻るリスクも想定しているようだ。ロイターが行った2月の企業調査では、増税を除いた1年後の物価見通しについて、足元より物価上昇が進むとの見方は相対的に少ない。デフレ基調に逆戻りするとの回答も全体の25%に達している。

2%程度の安定的物価上昇を目指す日銀自身、賃金の上昇に厳しい見方を指摘するリポートを公表(2月24日「賃金版ニューケイジアン・フィリップス曲線に関する実証分析」)。失業率が改善し、インフレ率も上昇しているとはいえ、近年はそうした状況が賃金上昇率に与える影響が低下していると分析、景気の改善下でもなかなか時間当たり賃金が上がりにくいことを示唆している。

「実質的に国民の懐が豊かになっているところまでまだ至っていない」-- 。麻生太郎財務相も今、起こっている物価上昇がまだ輸入インフレの段階にとどまっているのは、企業が賃金引き上げに慎重な姿勢をとっていることが背景だと見ている。

大幅な円安進行にもかかわらず、13年暦年の経済データからは、その効果が期待したほどではなかったことが浮かび上がる。企業が円安に伴う輸入コストをきちんと国内価格に転嫁することで、企業収益の改善を持続させ、それにより賃金上昇に積極的に取り組まない限り、安定的な景気回復は望めそうにない。

一方で、円安により海外への所得流出が続く中では、賃金上昇を実現することも難しい課題だ。「円安は万能薬ではない」と唐鎌氏は指摘している。

(中川泉 編集:石田仁志)

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