サントリー「ウイスキー大国」インド参入の勝算 市場規模は日本の10倍、専用商品で開拓狙う

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中国より先にインドに進出するのは、インドにビームの販路が備わっていたことが大きい。サントリーはビームの拠点を起点に現地の販売網を拡張。現在、日本企業が数多く進出しているデリー郊外のグルガオンに統括事務所を置き、6カ所の営業拠点と約235名の営業担当者を抱えている。

もともとビームの銘柄だった「ティーチャーズ」や「ジムビーム」ウイスキーの瓶詰工程もビームが持っていた現地工場を中心に行い、両ブランドを拡販してきた。

しかし、サントリー製の「山崎」ブランドなどのジャパニーズウイスキーについては、現地でほとんど浸透していない。インドでは、完成したウイスキーの輸入には150%もの高関税がかかるため、高価格となっていたのだ。

ハイボールを飲食店開拓の突破口に

実際、インドでは、現地で瓶詰めする「BII (Bottled in India)ウイスキー」、瓶ごと輸入する「BIO (Bottled in overseas)ウイスキー」は市場シェアがかなり低い。高価格のため、それがどうしても販売面のネックになる。

一方、現地でブレンド・生産する「IMFL (Indian-made foreign liquor)ウイスキー」は関税が低くなるため、比較的安価で販売できる。IMFLウイスキーは(インドの)市場シェアの98%(数量ベース)を握っていると言われる。

インドで売られている地場産ウイスキー(編集部撮影)

今回投入する「オークスミス」ブランドは、サントリーにとって初めて現地でブレンドを行うIMFLウイスキーだ。IMFLウイスキーは商品の質にばらつきがあり、価格も幅が広い。

「インドでは日本人のようにお酒を飲まない」(サントリー広報)といい、ウイスキーが食中酒として飲まれる文化はなく、ゆっくりとアルコール飲料を楽しむことが多い。

【2019年12月18日午後12時44分追記】初出時のコメントを一部修正いたしました。

そういう習慣を踏まえながら、現地にはない「ハイボール文化」定着させようと、飲食店営業の突破口としてハイボールメニューを用意。アルコール飲料を「軽く飲む」提案をしてきた。現地の人々の嗜好に合わせたフルーティーなハイボールを4種類用意し、若者層に広めている。

インド攻略に本腰を入れるサントリーだが、課題は多い。インドで瓶詰めしたウイスキーは州ごとにラベルを変えなければならない。州ごとに販売のルールが異なり、小売価格もコントロールされる。

経済成長に伴ってインドではより高級なウイスキーを求める中間層が増えている。新浪社長は「インドの人は舌が肥えているので、質の高いウイスキーを求める」と期待するが、無数に存在する現地ブランドのほか、イギリスやフランス、アメリカの競合ブランドとの競争も激しい。

サントリーの「やってみなはれ」精神で、どこまでインドの消費者の心をつかむことができるか。勝負は長期戦になりそうだ。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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