日産がルノーへの態度を変えた切実な事情 穏健派の内田新社長、提携見直し棚上げも
西川氏は任期途中から、業績回復とルノーとの関係見直しという最重要の経営課題を同時並行して進めてきた。経済産業省出身の豊田正和・社外取締役の支援を受け、ルノーによる出資比率引き下げなど、フランス側との交渉を水面下で続けてきた。
西川氏は「ルノーの経営関与が強まることはないし、絶対にさせない」「経営統合は日産が価値を生み出す力を毀損する可能性がある」などと、ルノーやその筆頭株主であるフランス政府の神経を逆なでしかねない発言も厭わなかった。アライアンス解体を主張する「過激派」ではないが、ゴーン氏失脚を機にルノー主導の現状を変えようとする「強硬派」とも言えた。
ルノーからの信頼が厚い内田氏
内田氏は12月2日の記者会見で「会社の独立性を保持しながら活動を進めていきたい」と述べた。記者から発言の真意を問われると、「経営統合はあくまでも形でしかない。各社の利益にアライアンスがどう貢献できるかが重要だ」と直接的な回答を避けた。社長として初の表舞台だったということもあるが、フランス側を刺激しないよう慎重な発言が目立った。
内田氏がルノーとの関係について踏み込んだ発言がしにくい背景には、日産自身の業績不振のために身動きが取りづらいことがある。北米や新興国での戦略ミスなどによって、今2020年3月期の営業利益は1500億円(前期比53%減)にとどまる見通しだ。
経営再建に注力するためには、ルノーとの主導権争いに時間と労力を費やすよりは、むしろ協業によるコスト削減を進めたほうが得策とみている。ある日産幹部は「今はアライアンスを安定化させることが重要。資本うんぬんの話は当面棚上げになる可能性が高い」と言う。
加えて、内田社長を筆頭に、ルノー出身のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)、生え抜きの関潤副COOによるトロイカ体制が誕生したのは、ルノーへの配慮という側面が強いこともある。内田氏はアライアンスの共同購買組織やルノー傘下の韓国合弁会社への出向経験があり、ルノーからの信頼が厚いとされる。
ただ、今年9月に辞任した西川前社長の後継選定過程では、指名委員長の豊田取締役が関氏を推すなど、内田氏は当初は2番手の存在だった。そこから逆転して内田氏に決まったのは、ルノーのジャンドミニク・スナール会長による支持が大きかった。こうした経緯がある以上、ルノーを刺激するような言動には慎重にならざるをえないのかもしれない。
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