通学客の不満解消、「観光列車」驚きの大変身 ロングシート化で自転車搭載を可能に

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しかも、バスのチャーターが日常化すると、今度は通学生の間に「無理に乗るよりも、バスを待って座ったほうが楽」という心理が生まれ、定時運行の障害になる。観光列車に統一した結果、本来の使命である通学輸送を十分に果たせない状況が生じていたのである。

永江社長は、KT-500形の導入が完了した後の2015年10月に社長に就任した。満足な通学輸送ができない状況を見て、大いに悩んだに違いない。しかし、車両を改造するには多額の費用がかかるうえ、車両デザインを担当したドーンデザイン研究所への信義もある。

そこへ現れたのが、国が自転車活用推進法に基づき推し進めるサイクルツーリズムだった。自転車が安全に入れるスペースを確保することは、すなわち立席スペースを増やすことにつながる。国の政策に沿った観光振興策ということで改造費用を工面しやすく、また、言葉は悪いがデザイナーに対する大義名分にもなるだろう。

一石二鳥のサイクルトレイン

もちろん、サイクリング振興としても確かにメリットがある。湯前人吉自転車道は人吉から湯前に向かって緩い上り坂が続き、慣れないサイクリストにとっては往路がきつい。まずは「田園シンフォニー」に乗って、車窓とマップを見ながら計画を立てて湯前から自転車をこぎ出せば、下り坂29㎞という初心者にも快適なサイクリングが楽しめる。くま川鉄道にとって、サイクルトレインの導入はまさに一石二鳥だった。

KT-500形の改造は、高校の夏休み期間を利用して7月から順次行われ、9月半ばまでに完了した。現時点では、その効果は数字には表れていないが、平日朝の列車を取材したところ高校生たちがスムーズに車両の中央まで入っていく様子が見られた。

年間200万円前後かかっていたというバスのチャーターが半減すれば、それだけで100万円の経費節減となる。長期的には定時運行性が向上し、利用者からの信頼性向上につながるはずだ。

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