通学客の不満解消、「観光列車」驚きの大変身 ロングシート化で自転車搭載を可能に
サイクルトレインは、10月27日に開催された「『日本でもっとも豊かな隠れ里』サイクリングinひとよし球磨」に合わせて準備され、イベント終了後の29日からスタートした。乗車券だけで利用できるが、事前に電話での申し込みが必要だ。
くま川鉄道の永江友二社長は、「近年訪日外国人観光客も増え、人吉球磨川地方を訪れる観光客が増えている。サイクルトレインを運行することで、地域観光の選択肢を増やし、地域を周遊する旅行者の利便性充実を図りたい」と述べる。
だが、このサイクルトレイン、くま川鉄道の真の狙いは別のところにある。
それは、通学輸送環境の改善だ。くま川鉄道沿線には高校が4校あり、毎朝900人近い高校生が通学にくま川鉄道を利用している。平日の湯前発上り一番列車は、毎朝3両編成の列車に450人あまりの高校生が乗りこみ、足の踏み場もないほど混雑する。しかも、2019年に多良木高校が閉校となった結果、短期的には通学輸送は増加傾向にある。
ところが、くま川鉄道の車両は混雑時の収容力よりも着席時の快適性を追求した観光仕様。その結果、通学生が列車に乗り切れない事態が頻発しているのである。
高校生が乗り切れない
くま川鉄道は、国鉄そしてJR九州の湯前線を引き継ぎ、熊本県の人吉温泉駅と湯前駅を結ぶ24.8㎞の路線だ。転換当時から通学輸送が盛んで、以前はJRから借り受けた車両を含め、長年8両での運用を行っていた。
【2019年12月1日12時00分 追記】記事初出時、湯前線の記述に誤りがありましたので、上記のように修正しました。
現在のKT-500形「田園シンフォニー」は、2014年から翌年にかけて、5両が順次導入された。老朽化したKT-100形・200形を置き換え、2016年からはこの5両で運行している。
「SL人吉」や「いさぶろう・しんぺい」といった肥薩線の人気観光列車に接続し、いつでも上質な観光車両に乗れる路線とすることで、通学輸送依存からの脱却と観光利用の拡大を図ったのである。仕様を統一することで、運用やメンテナンスを効率的にする目的もあっただろう。
だが、通学輸送がある中、車両をすべて観光仕様に統一するのは無理があった。クロスシートの車両は立席スペースが狭いうえ、特産品展示の棚もあって奥まで進みにくいので、乗降扉付近がとくに混雑する。
高校生の場合「先輩の隣に後輩が座れない」「女子が座っているボックスに男子が座れない」といった問題もあり、クロスシートでは効率的な乗車が難しい。その結果、乗り切れなかった乗客がホームに取り残されるという「積み残し」が日常的に発生し、くま川鉄道はそのたびにバスをチャーターして代行輸送をしていた。
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