零式(れいしき)艦上戦闘機 清水政彦著 ~マニアックな細部と事実へのこだわりが結晶
男の子なら誰でも動くものが好きだ。ましてそれが零戦なら。そのエンジンは14気筒2万7900ccで1000馬力を生み出す。フェラーリなんて問題じゃない。ある友人が「日本のガソリンは粗悪でオクタン価が低かったから性能を出せず、アメリカのガソリンを入れたらとんでもない性能だった」といきなり話し出したことがある。
零戦は、確かに人を興奮させるものを持っている。本書は、そのような興奮と、マニアックな細部と事実へのこだわりが結晶している。評者は、このこだわる姿が好きだ。それが、戦争という大問題を、細部と事実にこだわらず遂行してしまった人々への批判にもなるからだ。
航空機および航空母艦から飛び立つ艦上戦闘機としてのメカニズムの解説がわかりやすい。著者は弁護士であるが、裁判員制度で求められる、わかりやすい法廷弁論術にもさぞや長けているだろうと思わされる。
零戦が大戦後期に惨めに敗北した理由として、非力なエンジンで機体強度と防弾をおろそかにした結果、優秀なパイロットを消耗したことが挙げられることは多い。しかし、本書は、これを神話として否定する。
総力戦において熟練したパイロットはいずれ戦死するのであり、補充した素人に近いパイロットをいかに戦力化するかが勝敗を分ける。すなわち、機体の性能よりも空戦開始時の態勢、チームワーク、射撃の巧拙などが重要であるのに、日本にはその思考がなかったという。ハードよりソフトに問題があったと言われると、それは現在の日本にも通じる教訓となる。
後半は、零戦の出撃とその結果の羅列となる。淡々とした叙述だが、その消耗の激しさに胸を打たれる。本書は、事実と細部に徹したがゆえに戦争の虚しさをも伝えている。
しみず・まさひこ
弁護士。1979年生まれ。東大経済学部卒。金融法務の傍ら、航空機と戦史の研究に励む。
新潮選書 1470円 350ページ
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