米景気後退を食い止めるシナリオはあるのか? トランプ政権は景気後退懸念を払拭できるか

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もちろん、今後の状況次第では再び緩和方向に政策の舵を切ることも十分にありうるだろう。FRBの利下げに対する期待はつねに株価の下支え要因となるが、利下げによって本格的に景気を押し上げようと考えるのであれば、かなりのペースで利下げを進める必要がある。

現在の1.50~1.75%という金利水準では、利下げ余地は十分とは言えないのではないか。いずれにせよ、に利下げに踏み切ることがあるとすれば、景気の減速がさらに進み、株価に大幅な調整が見られた後となるのは間違いないと思われる。

景気対策は効果も高いが民主党との対立がネックに

大幅減税や公共投資などの政府による財政出動は、やはり景気浮揚策の王道であり、効果も十分に期待することができよう。結局のところこの秋、景気の減速を軽微なものに食い止めることができるかどうかは、どれだけ早いタイミングで十分な規模の景気対策を打ち出すことができるかにかかっているのではないだろうか。

もっとも、予算を伴う景気対策には、議会の協力が必要になることも忘れてはならない。昨年の中間選挙で野党民主党が下院の過半数を握り、ウクライナ疑惑をきっかけとしてトランプ大統領の弾劾手続きが始まったばかりという今の状況下で、ホワイトハウスと議会がしっかりとした協力体制を築き上げることができるとは考えにくい。

トランプ大統領が就任2年目に大型減税をまとめ上げ、その後の大幅な株価上昇をもたらしたことは記憶に新しい。もっとも当時は共和党が上下両院の過半数を確保していたことに加え、ジョン・ケリー首席補佐官(当時)が政権内部をしっかりと掌握、ゴールドマンサックス出身のゲイリー・コーンNEC委員長(当時)がしっかりと根回しをした結果であることも忘れるべきではないだろう。

現在は下院を民主党に握られ、ケリーやコーンといった大物閣僚も政権から去ってしまい、政権はトランプ大統領の顔色をうかがうイエスマンのみで固められている。就任当初に派手に打ち上げられた大型のインフラ投資も、もともとは民主党寄りの政策との見方もあり、成立への期待も高かったが、いつの間にか立ち消えとなってしまった。

大統領選挙を翌年に控え、大統領も大型の財政出動を打ち出したいと思っているのだろうが、今の政権に民主党を説得して法案をまとめ上げる実力が備わっているとは思えない。もちろん、この先実際に景気後退局面に入り株価も大幅に下落、国内に危機感が高まるような状況になれば、緊急経済対策がまとめ上げられることになるだろう。

もっともリーマンショックの後に当時のヘンリー・ポールソン財務長官を中心にまとめ上げられた緊急経済安定化法ですら、1度は法案が下院で否決され、さらなる株価の急落をもたらしている。今のトランプ政権と民主党の対立を考えれば、仮に経済対策が成立しても、後手に回ってしまう恐れは十分に高いと考える。

このようにいろいろなシナリオを考えてみればみるほど、この先起こる可能性の高い景気のさらなる減速や景気後退を未然に食い止めることが、いかに難しいことかが浮かび上がってくる。株価が上昇基調を維持している中にもかかわらず、FRBが3会合連続で利下げを打ち出したことで、株価は極めて割高な状況にあるからだ。

トランプ大統領が中国をはじめ、世界各国に貿易戦争を仕掛けたことが、今の景気減速に対する懸念の要因となっていることは間違いないのだが、一方では投資家に過剰な期待を抱かせるような発言を繰り返し、株価を吊り上げてきたのも大統領だ。そのことが、かえって有効な経済対策を打ち出しにくくなっている。

結局のところ、現時点でトランプ大統領ができることといえば、中国に大幅な譲歩をして貿易交渉を早期にまとめ上げ、賦課している関税をすべて撤回することくらいだろう。もともと関税の賦課が景気減速の根本的な要因だったのだから、関税撤回の影響はかなり大きなものとなる。あとは、中国との争いに敗れたという印象を与えるのが必至となるこうした方針を、大統領が受け入れることができるのか、ということではないか。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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