米景気後退を食い止めるシナリオはあるのか? トランプ政権は景気後退懸念を払拭できるか
もちろん、話はそれほど簡単なものではない。米中間の溝が深く、交渉が一向に進まないことが、ここまで関税の引き上げ合戦を激化させたことは間違いないからだ。これは単なる貿易問題ではなく、次世代の世界経済における米中の覇権争いだ。関税の上げ下げや、中国がアメリカ製品をさらに買い付けるといった、お金で解決できる問題だけだったのなら、とうの昔に合意は成立したのではないか。
10月初めに行われた閣僚級の交渉によって、第1段階の合意はなんとかまとまったが、外国企業に対する中国の門戸開放や国内企業への補助金の問題など、第2段階以降の問題はほとんど解決の兆しが見えていないのが実際のところ。苦労してまとめた第1段階の合意に関しても、中国が関税の段階的な撤廃を合意の条件にねじ込もうとしてきたことで、不透明感が急速に高まっていた。
内容不十分な合意なら失望感が高まるリスク浮上
双方の関係者から楽観的な発言が出てくるたびに市場の期待は高まり、株価も過去最高値の更新を続けているが、実際に第1段階でどこまでの合意ができるのか、それによって関税がどの程度撤回されるのか、詳細がまだ見えていないというのが実際のところだ。
第2段階以降の交渉を有利に進めるためにも、アメリカ側が関税という大きな交渉のカードを、簡単に手放すことはないだろう。関税の撤回が不十分であれば、景気減速に対する懸念も残ることになる。仮に合意が成立したとしても、内容が不十分なものにとどまれば、足元での市場の期待が強い分、失望感が高まるリスクは浮上しそうだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策はどうだろう。10月29~30日に開かれたFOMCでは、大方の予想どおり3会合連続での利下げが決定された一方、声明では「成長維持のために適切な行動をとる(will act as appropriate)」との文言は削除、ひとまず利下げもこれで打ち止めとなることを示唆する格好となった。
前会合と同様、カンザスシティー連銀のエスター・ジョージ総裁とボストン連銀のエリック・ローゼングレン総裁が利下げに対して反対票を投じたほか、将来的な利下げの余地を残しておく必要性や、資産価格の上昇がインフレにつながるリスクを懸念するとの理由から、さらなる利下げには慎重な意見も多く、当面は様子見の方針を維持する可能性が高いと見てよいだろう。
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