格安スマホ、「通話も格安」の時代が来るか 日本通信が卸料金値下げ求め大臣裁定を申請

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具体的には、キャリアは通話30秒当たり14円の回線利用料を取っており、これは2011年から8年間も変わっていない。この間、キャリア各社は割安な通話の定額かけ放題プランを導入し、格安スマホ各社との間で通話料金に大きな格差ができている。

今回、大臣裁定を求めた日本通信と相手企業のドコモで比較するとそれは明確だ。ドコモは税別で月額1700円の通話かけ放題プランを主力としている。一方、日本通信の場合は月額800円の基本料に30秒20円の通話料がかかる。単純計算で1カ月に22分30秒以上電話をしただけで、通話料金は日本通信のほうが高くなってしまうのだ。そのため、日本通信は電話をあまりしない限定的な層にしかアプローチできなかった。

日本通信の福田尚久社長は「実感として、ほとんど電話をしない利用者は2割くらいしかいない。音声の卸料金が是正されればもっと多くの利用者の選択肢になれる。データ通信、音声ともドコモより4割以上安く提供できるようになる」と話す。

総務省にとっても「渡りに船」

総務省としても、キャリアと格安スマホ間での通話料金の格差をこのまま看過し続けるつもりはない。近く音声の回線利用料の基準づくりに着手する方向で、水面下で検討を進めている。ただし、省庁発のルール作りでは有識者会議での検討やパブリックコメントの募集などのプロセスが必要になるうえ、効力を発するまでに時間がかかる可能性がある。

インタビューに応える福田尚久・日本通信社長(記者撮影)

だが、大臣裁定にはこうしたプロセスが不要で数カ月程度で結論が出るうえ、法律に近い強制力を持つ。かつ、裁定から即日で効力を発するため、日本通信は速やかな音声卸料金の値下げを求めて大臣裁定の申請に踏み切った。福田社長は「音声卸料金は日割りでも計算できる。こちらの要請どおりの裁定が出ればドコモにはすぐ引き下げに応じてもらいたい」と話す。

今回の大臣裁定の申請は総務省にとっても、「渡りに船」だ。昨年8月に菅義偉官房長官が「携帯電話の料金は今より4割下げられる」と発言したが、その起爆剤として期待していた楽天モバイルのキャリア事業は当初予定の10月にスタートを切ることすらできず、いまだに開始時期のメドもたっていない。

キャリア各社は今夏、楽天のキャリア参入に対抗するために秋以降の通信料金の値下げを示唆していたが、楽天のつまずきを横目で見て見送っている。総務大臣裁定で日本通信の言い分が認められれば格安スマホ勢を軸として、目下停滞している競争を活性化させることができる。

もともと、データ通信の回線利用料も2007年に日本通信がドコモを相手に総務大臣裁定を求める申請を起こしたことを契機に現在の基準ができた。今回の申請が、携帯業界にとって大きなターニングポイントになることは間違いない。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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