「アメリカ衰退論」が的を射ていない理由--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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3次元から成る現代のパワー配分

オバマ大統領は就任演説の中で「わが国のパワーは、それを賢明に使うことでさらに大きくなる。わが国の安全は大義の正当性、規範を示す力、謙遜さ、自制心によってもたらされている」と語った。その直後、クリントン国務長官も「最も差し迫った問題でも米国単独では解決できない。世界も米国抜きで問題を解決できない。私たちは、私たちが利用できるすべての手段を動員する“スマートパワー”を使わなければならない」と発言した。

現代の世界では、パワーの配分は状況によって変化する。それは3次元のチェスの試合と似ている。いちばん上のチェス盤には軍事力が存在し、米国が一極的な超大国の地位にある。真ん中のチェス盤には経済力があり、すでに10年以上にわたって多極化が進んでいる。そこでは米国、欧州、日本、中国が主要なプレーヤーであり、他国も重要性を増しつつある。

いちばん下のチェス盤は、政府の管理が及ばない場所で行われる国際的な領域である。そこには国家の予算規模を上回る金額を送金する銀行家やサイバーセキュリティを脅かすハッカーなどさまざまな非国家的な人々が存在する。疫病や気候変動といった新しい課題も存在する。

最も下のチェス盤ではパワーは分散し、一極化や多極化などという観点から議論するのは意味がない。金融危機後も技術革新は急速なスピードで進み続け、国際化を促進し、国境を超えた難題を突き付けている。

21世紀の米国のパワーの問題は、最も強力な国家である米国でさえコントロールできない事柄がますます増えていることだ。米国は軍事的な手段の行使では巧みであるが、軍事的な手段で対応できない事柄が増えているのである。

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