日本のテレビ番組「海外輸出」30年の歴史と展望 収益だけでなく盗作抑止やブランド構築にも

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日本の海外番組販売担当者がフォーマット販売に期待したのは、その利益率の高さと並んで、盗作への抑止力となることだった。例えば韓国では、99年までの数年間に新聞紙上などで日本の番組の盗作と疑われた番組は30作以上に上っていた。

しかし、2000年代後半からは盗作疑惑を耳にする機会は減った。理由の一つは疑わしい番組はネット上で細かな点まで元ネタと噂される番組と比較され、非難に晒されるなかで、もはや「バレなければ盗んでもいい」という考えが通用しなくなったことだろう。同時に、番組フォーマットを金銭面できちんと評価することが世界中で定着してきた結果とも考えられる。

実際にフォーマットを購入する側には、契約によって正式にお墨付きをもらうこと以上のメリットがある。フォーマット販売には「バイブル」と呼ばれる仕様書が存在し、番組制作に関わるさまざまな項目が細かく規定されている。また、オリジナル版の制作スタッフが販売先を訪れ、現地版制作のための監修も行われる。番組フォーマットが一種の知的財産(=IP)と見なされるのは、このように制作ノウハウと深く結びついているからだろう。

ある番組制作者は、海外から番組フォーマットを購入して初めて、その番組を見るだけではわからなかったノウハウが数多く存在することを知り、「仮にパクってもうまく作れないし、きちんとフォーマットを購入して作るべきだと実感した」と筆者に語った。バイブルにせよ現地版の監修にせよ、以前から存在していたものだが、近年の細かく作り込まれた番組において、それらの価値はますます高まっているようだ。

グローバルブランドとしてのフォーマットビジネス

最後に課題として、フォーマット販売によるテレビ番組のグローバルブランド化を挙げたい。例えば、典型的なグローバルブランドであるスターバックスやマクドナルドでは、世界中にフランチャイズ展開をする中で必要に応じてローカライズが行われるが、ブランドが根幹に持つアイデンティティやコンセプトはどの市場でも不変であり、グローバル規模で遵守されている。

世界各国にフォーマット販売される番組も同様で、各国視聴者の嗜好に合わせたローカライズを進める一方で、ブランドの普遍性のためにバイブルや現地版の監修が不可欠となる。

さらに、フォーマット販売とは番組タイトルやロゴなどのブランドをライセンスするビジネスとも捉えられる。それらブランドはメディア横断的に活用され、多方面への事業拡張が可能である。

実際、既述の「Millionaire?」や「Idol」、あるいは日本発でも「NINJA WARRIOR」などは番組フォーマット販売にとどまらず、そのためのマーケティング手法として、ゲームやグッズ、アパレルなどの商品化や視聴者参加型イベントの開催などクロスメディア的展開が見られる。このような展開がフォーマット販売される番組の価値をさらに高めることは間違いない。

本稿で論じたように、日本の番組のフォーマット販売には長い歴史と蓄積がある。今後は番組のブランド価値向上と、より戦略的なビジネス展開を視野に入れて取り組んでいく必要があるだろう。

大場 吾郎 佛教大学社会学部 現代社会学科教授

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おおば ごろう / Goro Oba

Ph.D.(マスコミュニケーション学)。専門はメディア産業論、コンテンツビジネス論。著書に『テレビ番組海外展開60年史』、『韓国で日本のテレビ番組はどう見られているのか』(ともに人文書院)などがある。

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