実質実効レートを使って為替相場を展望する 金融政策の余地が小さくなる中での判断材料

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こうした現状をもたらしている要因はさまざまに考えられるが、既述のとおり、ドルに関しては絶対金利水準の高さが作用している部分があるだろう。片や、絶対金利水準の低い円やユーロが買われている理由をあえて挙げれば、新興国の金利のほうが下げ余地が大きく、とりわけ過去5年においてはその動きが為替の動きに強く作用したということだろうか。円やユーロはもう下がり切っているので低金利を理由に売られにくいのである。

だが、新興国も金利の下げ余地を使い果たしつつある中、「G3通貨vs.その他通貨」の構図が今後5年も続くと考えるのは危うい。多くの通貨で政策金利が下がればそのうち政策金利の変動で為替変動を説明できる部分が小さくなっていく。そうなると物価尺度で見た調整余地を映し出す実質実効レートの「歪み」は、先行きを展望する上で重要なヒントを与えてくれるのではないか。

メキシコペソやスウェーデンクローナに注目

冒頭から見てきたように、実質実効レートを尺度とした場合、円には割安感の、ドルには割高感の修正余地が残っているという事実を考慮すれば、やはりドル円相場のリスクバランスは下方向、すなわち円高ドル安方向に広がっているといえる。同様にユーロも小幅だが割安という評価にとどまっているため、ユーロドルのリスクバランスはユーロ高ドル安というイメージになる。

そのほかの通貨ではどうか。割高割安の乖離率が修正に向かうという前提で先行きを考えると、下がるドルに対してメキシコペソやスウェーデンクローナそして英ポンドなどが騰勢を強めるチャンスはありそうだ。言うまでもなく英ポンドに関しては、ブレグジットの行方が定まるまではあまり関わりたくないという側面はある。

実質実効レートから見たリスクバランスのイメージはあくまで1つの尺度に照らしたヒントであり、最終的には政治状況にも配慮した総合判断にならざるをえない。しかし、政策金利という有力な道しるべがぼやけ始めている中で、「簡素だが伝統的な尺度」である実質実効レートの与えてくれるヒントは一見の価値があり、筆者は頼りにしている。

※本記事は筆者の個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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