渋谷駅新ビル、畑違いの男が生んだ「目玉施設」 11月開業、ベンチャーの梁山泊を目指す

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先輩企業家を招いて個別相談会を行う構想もある。「1990年代後半から2000年代の初めにかけて、渋谷には先輩後輩の文化があった。こういうカルチャーを意識的に作りたい」。

渋谷QWS内部のイメージ(画像:渋谷駅街区共同ビル事業者)

野村さんは人に会うだけでなく、本も読みまくった。わかったことは、ロンドンやベルリンの大学は日本のようにアートとサイエンスを区別せず、総合的に勉強する仕組みが完成しているということ。多彩なプログラムを提供すると、美術と工学を学んでユニークな掃除機や扇風機を生み出したジェームズ・ダイソンのような人が出てくるかもしれない。

そのためにも大学との折衝が必要だった。東京大学、東京工業大学、慶應義塾大学、早稲田大学、東京都市大学の5大学と連携協定を結ぶことができたが、「お願いします」「いいですよ」と簡単に実現したわけではない。

さまざまな大学の先生に、「話を聞いてほしい」と歩いて回った。徒労に終わる日々が続く中、ある大学の教授が「面白そうだ」と関心を持ってくれた。そのうちに別の大学の教授も関心を持ってくれた。建築、科学、脳科学、言語学と多様なネットワークが広がった。

東京大学の内藤廣・名誉教授は「大学や個別の研究が閉ざされていることを課題視していました。大学連携というのは、大学を開くことを意味します」と渋谷スクランブルスクエアの広報誌で述べている。大学側でも渋谷キューズへの期待が大きい。

「梁山泊」になれるか

ベンチャービジネスの世界では、「失敗を恐れるな」は当たり前。野村さんも人には言えないような失敗を重ねながらようやく、渋谷キューズの形を作り上げた。2014年の着任当初は「なぜ私が?」と思った野村さんだったが、今になってみると自分にこの仕事が与えられた理由がわかるような気がする。

数字を扱う財務の仕事は型どおりの仕事と思われがちだが、新しいファイナンス手法の構築など、創造的な部分も多い。手探りでこれまでになかったことを行うという点では共通していたのだ。

もっとも、イノベーションを創出する仕組みを整えたところで、渋谷キューズ発の成功事例が実際に生まれない限り、せっかくの仕組みも絵に描いた餅にすぎない。ベンチャーの梁山泊と呼ばれるくらい、多くの人材を次々と輩出する存在になれるかどうか。野村さんの仕事もこれからが本番だ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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