臨床研究にMR関与、ノバルティスの重い罪 実際は製薬会社主導だった

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今回の件では、いくつもの不正が判明している。

臨床研究に際して医師が患者に実施した副作用アンケートの結果が記載された書類を、同社のMRが預かり、東大病院の事務局に届けていた。これは1月23日の記者会見でノバルティスの二之宮義泰社長が「不適切な事例」として認めた。

高価な新薬に誘導

ノバルティスの東日本営業部は、担当する医療施設でのアンケート実施枚数などをMRが競う「インセンティブプログラム」を実施。東日本営業部長の了承の下で行われ、「ブロック対抗戦」では、より多くのポイントを多く得たチームに、賞品としてスターバックスのコーヒーチケットが与えられていた。

もっとも、不正行為はこれだけにとどまらない。

ノバルティスは1月28日、臨床研究を通じて従来の薬よりも薬価が3割近くも高い新薬タシグナ(一般名ニロチニブ)に切り替えた場合にも、インセンティブプログラムで社員にポイントを与えていたことを明らかにした。

これは臨床研究を隠れみのにした新薬の販売促進活動にほかならない。従来の治療薬グリベック(一般名イマチニブ)の特許は今年9月に失効するため、ジェネリック医薬品に置き換わる可能性がある。それを未然に防止する狙いがあったようだ。

また、ノバルティス社員は、医師による日本血液学会学術集会での発表スライド作成にも関与。同集会で発表された臨床研究の中間解析結果を、販促活動に使用していた。

このようなノバルティスによる販促行為は、日本製薬工業協会が定めた「企業行動憲章」や「医療用医薬品プロモーションコード」などに抵触している可能性が高い。

一方、「製薬会社の関与はない」などと、誤った情報を流して患者を臨床研究に参加させた東大病院医師による行為は、適切な医療の実施義務(インフォームドコンセント)を定めた医療法や「臨床研究に関する倫理指針」に違反しているとみられる。

さらに今回の不祥事は、氏名のイニシャルや生年月日、医薬品の副作用など患者の個人情報を流出させた点で、参加した病院の責任も問われかねない。

週刊東洋経済2014年2月8日号〈2月3日発売〉 核心リポート03)

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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