金融機能強化法の盲点、日本版レモン社会主義を考える

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一方、旧機能強化法では紀陽ホールディングス(315億円、06年11月)と豊和銀行(90億円、06年12月)にそれぞれ公的資金が注入された。関東つくば銀行(08年9月に返済済み)に注入された60億円の劣後ローンを含む金融機能強化勘定は、08年3月現在、470億円の総資産に対して利益剰余金は5億円余り。この勘定が閉鎖時に債務超過なら、国民負担が発生するというわけだ。

資産超過で問題ないように見えるが、注意すべき点がある。注入後、紀陽HDは07年3月期に1株につき5円、08年3月期に同14円の優先株配当を行った。一方、豊和銀は、09年3月期は18.4円の配当を予定しているが、07年3月期、08年3月期とも無配だった。公的資金優先株は非累積であるため、ある期に配当されなかった原資が後の期に上乗せして株主に還元されることはない。つまり、豊和銀が本来配当するはずであった2期分の得べかりし利益が存在するのだ。金融危機前の公的資金注入にしてこういう状況だが、危機真っただ中の公的資金注入で損失が出ないと言い切れるだろうか。

昨年末の国会論戦では、預金保険法の損失が金融機関負担で、機能強化法の損失を国民が負担するのはなぜか、というやり取りもあった。本質を突いた質問だったと思うが、その後の議論は深まらなかった。おそらく、金融機関の破綻や金融危機といった「非常時」を前提としている預金保険法と異なり、機能強化法は公的資金注入後の収益成長を前提とした「平時」を建前としているため、破綻を想定した議論がしにくかったからだと思われる。

筆者は金融システム安定のため、最後の帳尻は国民負担(税金)で合わさざるをえないと考えるが、そのことに国民的な合意があるかと問われると、はなはだ自信がない。損失の規模によっても、国民感情はおそらく変わるだろう。このレモン社会主義の話は、某航空会社や某半導体メーカーへの資本注入が取り沙汰される産業活力再生特別措置法にも当てはまるのではなかろうか。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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