金融機能強化法の盲点、日本版レモン社会主義を考える

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だが、旧機能強化法が注入行の経営責任を問うことを注入の条件にしたのに対し、新強化法は一律には経営責任を負うことは求めず、国が資本注入に当たって求める経営改善の基準も緩めた。ハードルが低くなった分、健全性に劣る金融機関、つまり「レモン」の入ってくる可能性がある。法案の議論が行われた昨年11月、12月の時点と比べ、金融機関の財務も一段と悪化している。「健全な」金融機関に「予防的に」注入するという建前には少々無理が出てきたのではなかろうか。

現に、いの一番に手を挙げた札幌北洋HDはその後、08年12月末の有価証券評価損について、653億円を計上すると発表した。同じ大手地銀で見ても、この評価損の金額は突出している。第3四半期決算を見ても、通期の業績予想を下方修正する銀行が目立ち、地銀の09年度収益の見通しには不透明感が漂う。

仮に、注入先の金融機関が公的資金を返せなくなったらどうなるか。

わが国には現在、銀行に公的資金を注入するスキームは二つある。預金保険法と今回改正された金融機能強化法だ。だが、法律によって、財源や最終的な損失を誰が負担するかの仕組みは大きく異なる。

預金保険法の場合には、金融機関の保険料によって財源が賄われている。正確に言うと、同法には一般勘定と危機対応勘定があり、後者には、金融機関の財務の状況が著しく悪化するなどの場合に、費用の一部を政府が補助するという例外規定がある。

これに対し、改正機能強化法は、法文上はっきりしないが、損失が出た場合、国民負担になるようだ。国会審議でもこの点が議論になり、前出の内藤局長は「損失が発生をいたしまして返済ができないということになりましたら、最終的には政府の負担」(10月31日衆議院財務金融委員会)になると答弁している。 

優先株の得べかりし利益

この点を数字で確認してみよう。預金保険機構にある7勘定のうち、一般勘定は1.3兆円の債務超過。危機対応勘定は267億円の資産超過(いずれも08年3月末現在)。一般勘定の債務超過額は年間5000億円強のペースで減少しているうえ、金融機関の保険料収入で原則賄われるので、国民負担はない。

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