マッキンゼーが指摘する「日本の鉄道の改善点」 現在の鉄道業界に足りないものは何か?

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鉄道分野での調達コスト削減事例も多数有しており、過去事例からコスト削減の可能性を割り出すことが可能だという。小松原氏によれば、購買品目別で削減ポテンシャルが高いのはブレーキ装置、エアコン、電気機器、台車など。逆に乗車情報システム、衛生設備などは削減ポテンシャルが低い。

また、削減ポテンシャルが高いとされる電気機器やエアコンでも、どの側面からコスト削減できるかというアプローチの仕方が異なる。電気機器はケーブル配線の変更など技術的側面からのコスト削減、空調機器はサプライヤーが多いのでサプライヤー間での価格交渉によるコスト削減といった具合に、購買品目によって打つ手が変わってくる。

サプライヤーとの交渉においては、購買品目をパーツ別に分解して、投入された人件費や物流費などを分析して製造原価を割り出し、価格引き下げ交渉に使うことも行われる。欧州のある高速鉄道運営会社では、調達する高速鉄道車両をモジュールごとに分解し、30%のコスト削減可能性を特定できたという。おそらく、鉄道会社が新型車両を調達する際に、車両メーカーが部品を調達する際に、マッキンゼーが価格交渉のための理論構成を指南しているのだろう。

従来のマッキンゼーは戦略立案が中心で、その後の実行やスキル構築は顧客企業が実践したが、現在はコスト削減スキルを会社に定着させるため、交渉トレーニングやロールプレイを通じてバイヤー全員を底上げして調達のプロを育成し、全社に調達マインドを浸透させ、最終的には関連会社への活動の横展開まで行っているという。

日本の鉄道「将来もトップかは疑問」

マッキンゼーのコンサルティングは鉄道会社や車両メーカーだけでなく、政府機関の交通政策にも及ぶ。

世界各国から日本に集結したマッキンゼーの鉄道コンサルチーム。デトレフ・モーア氏(中央)と、セバスチャン・スターン氏(右)(記者撮影)

例えば、ウーバーなどライドシェアの増加により交通渋滞が増加しているアメリカのイリノイ州シカゴ市では、その現状を分析して、市政が誘導する場合、しない場合のシミュレーションを行い、通勤時間短縮やCO2排出に関する提言を行った。また、ロシアのモスクワ市でもビッグデータを活用して、自動車による移動を鉄道に置き換えるなど、市民に最適な交通ルートを案内できるようにする設計を行っている。

では、日本の鉄道業界の状況をマッキンゼーはどう捉えているのだろうか。

同社ハンブルグ支社でドイツ公共事業担当のトップを努め、世界の鉄道業界の取り組みにも詳しいシニアパートナーのセバスチャン・スターン氏は、「日本の鉄道は世界でもっとも優れているが、デジタル技術が鉄道業界で大いに活用される将来においても日本がトップでいることができるかどうかは疑問だ」と話す。

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