「合意なき離脱」はヨーロッパ全体を傷つける ブレグジットに伴う不確実性に金融界が警告

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――市場では「合意なき離脱」の予想も高まっています。

われわれは「合意なき離脱」を支持しない。各金融機関は「合意なき離脱」に備えて顧客へのサービス提供を継続するためのコンティンジェンシー・プラン(緊急時対応計画)を用意している。だが、「合意なき離脱」はイギリスだけでなく、他のEU諸国にもダメージを与える。

Gary Campkin/イギリス産業連盟(CBI)や経済協力開発機構(OECD)の要職を歴任後、2013年からシティーUKで主に国際戦略を担当。2019年にはイギリス国際通商省の通商戦略顧問に指名された(記者撮影)

最大のリスクは、欧州の価値提供力が低下することだ。市場のフラグメンテーション(分裂)が進むことで、金融サービス業のコストが上昇し、競争力が低下する。EUの市場や企業にも同様の悪い影響を与える。

市場の分裂は、市場機能が必ずしも欧州の金融センターへ移ることではなく、ニューヨークやシンガポール、香港といった国際金融センターへと移ることも意味する。なぜなら、金融サービス業にとって重要なのは、資本リスクを防ぐ市場の流動性の厚みであり、EU27カ国の市場ではすぐに実現はできないからだ。

もしイギリスがEUを離脱すれば、世界の金融センターのトップ5はすべてEU域外となる。それがEUにとって何を意味するかをよく考えるべきだ。

ロンドンの優位性に他の欧州都市は追いつけない

――世界の金融センターとしてのロンドンの強みをどう考えますか。

第1に、長い歴史の中で蓄積された専門性。金融サービス自体に加え、法務や会計など関連サービスの莫大な集積によって形成されたエコシステム(生態系)における専門性だ。

ロンドンがイギリス内の最大市場だが、230万人の関連従事者の3分の2はロンドン以外(エジンバラやマンチェスターなど)の市場が占めており、地域の金融センターも成長している。

第2にはコモン・ローを基礎としたイギリスの法律や裁判所制度の優位性がある。第3にはイギリス国内だけでなく、世界中から有能な人材が集まってくることだ。

ロンドンに来れば、金融やビジネスにおける世界トップレベルのキャリアを積むことができる。そのほか生活や教育の質の高さやタイムゾーン(時間帯)における優位性などを含め、他の欧州の都市がすぐには追いつけない総合力がある。

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