萩生田氏「衆院議長交代」発言、本当の狙いとは 政権3本柱を全員異動させ、安倍新体制づくり

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二階、菅両氏の立場が変われば当然、麻生氏の出処進退も注目の的となる。これまで安倍首相は麻生、二階、菅3氏を「政権の骨格」と位置づけ、とくに麻生氏については政局の節目ごとに2人だけで密談し、政権運営での意思疎通を図ってきた。10月からの消費税の10%への引き上げを主導したのも麻生氏だけに「今回は代えるわけにはいかない」(財務省幹部)との見方が多いが、「首相は3本柱を全員異動させることで、人心一新による安倍新体制をつくりたいのでは」との声も出る。

安倍首相は2016年の参院選の際、投開票日から間もない8月3日に党役員・内閣改造人事を断行し、「未来チャレンジ内閣」と名付けた。しかし、今回は選挙中から「人事は9月中旬」説が首相周辺から流された。選挙直後の7月22日に自民党総裁として会見した首相は、記者団から人事の時期や内容を聞かれると、二階、麻生、菅の3氏について「安倍政権への多大な貢献」を力説する一方で、人事については「まったく白紙、これから考える」とはぐらかした。

次の衆院解散は東京五輪の終了後か

首相側近は「次は安倍首相にとって総仕上げの人事。長期政権をどう締めくくるかも含め、首相は熟考するはず」と解説する。「国政選挙6連勝は総理総裁として不滅の金字塔」(首相経験者)でもあり、二階氏はすぐさま「安倍4選論」に言及したが、首相周辺は「首相は4選など考えていない」と否定する。

今後の政局運営の最大のポイントとなる衆院解散についても、「年末か、来夏の東京五輪の前か後」などとされるが、首相の政界の師でもある森喜朗東京五輪組織委会長(元首相)は7月24日の五輪関係の会合後、「当面解散はないと首相が言っていた」と述べ、解散は東京五輪終了以降になるとの見通しを示した。

もちろん、衆院解散は首相にとって政権運営の最大の武器だ。今回の参院選に合わせて意図的な衆参同日選説を流布し、国会における与野党攻防の主導権を握った。選挙後の会見でも、安倍首相は「同日選が頭をよぎった」ことを認め、解散についても「考えてはいないが、あらゆる選択肢を排除しない」と脅しを利かせた。

ただ、参院選で「れいわフィーバー」を巻き起こした「れいわ新選組」の山本太郎代表(前参院議員)は次の衆院選に照準を絞り、多数の候補者擁立や野党共闘強化に強い意欲を示している。今回参院選で失ったとされる改憲勢力3分の2も、国民民主党の玉木雄一郎代表が国会での改憲論議に積極的に参加する意向を表明したことで、「3分の2復活の可能性が高まっている」(日本維新の会幹部)のは間違いない。

となれば、首相は今後も解散しないままで改憲に突き進むことも可能となる。その場合、剛腕の二階氏を議長に就任させ、公明党や維新との太いパイプを持つ菅氏を幹事長に据えることで、改憲実現への舞台回し役とする人事はかなり現実味を帯びる。

萩生田氏には4月中旬に消費税増税凍結に絡めて衆院解散・同日選説を流した過去もある。与党内には批判が多いが、「萩生田発言が政局の流れを変えるきっかけになりうる」(自民長老)との見方もある。

11月に史上最長政権の勲章を手にする首相だけに、「安全策より、後継者作りを含めた大胆な人事に挑戦するのでは」(細田派幹部)との見方も少なくない。ただ、「3本柱の異動などは政権の不安定化にもつながる」(自民幹部)ことも否定できず、首相経験者の麻生氏が述懐しているように、人事を前にした夏休みの首相が「どす黒い孤独」(麻生氏)にどれだけ耐えられるかが、「人事を決めるカギ」(自民長老)となりそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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